Ep.2 ページ4
初めての寮での朝。
棘は朝 4時に目が覚めた。二度寝しようと目を閉じても全く寝れなかったので、せっかくだから敷地内の散歩でもと早々に制服に着替えて、部屋を後にした。
「あれ、棘?早いね」
「しゃけ、明太子!」
制服ではなく運動着で体操をしていた碧に、
おはようの挨拶の代わりに、手を挙げておにぎりの具を言った。
「二人きりのときは、普通にしゃべっても大丈夫だよ。
私呪力を防げるから、普通の会話のレベルの呪言なら全く効かないし....」
「.......おかか」
突然普通に話せと言われても棘には無理だった。
もう何年も人とはおにぎりの具以外の言葉で会話をしていないのだから。
「まぁ、そうだよね。
いいよ、楽な方で。」
ニコッと笑う彼女を見て、棘の心が少し揺れた気がした。
「もしかして散歩でもするの? 」
「しゃけ!」
こくんと頷くと、碧は、じゃあ一緒に歩かない?と聞いてきたので、再び棘は頷く。しかしそれと同時に不安が生まれた。
二人きりで歩いても会話が成り立たないから、彼女につまらない思いをさせてしまうのではないか、と...
「......お、おかか.....」
「大丈夫だって」
何に対して大丈夫だと言っているのかよく分からなかったが、棘は素直に彼女について行った。
「棘は優しいよね」
突然碧がそんなことを言うもんだから、棘はえっと目を丸くして彼女を凝視してしまう。
「相手を傷つけない為に、語彙をおにぎりの具に絞ってるじゃん」
「......おかか、すじこ」
「うん、確かに自分を守るためもあるかもしれない。
でも、護法師の私にもおにぎりの具で話すのは、私に体力を消耗させない為でしょ?
まぁ、ほんとに体力消耗する程でもないんだけど...」
確かに碧の言う通りであった。
体力を消耗させるとかまでは考えていなかったが、わざわざ自分の為だけに彼女の貴重な守護術を使わせるのはどうかと思ったのだ。
「ありがとう」
そう言って笑った彼女の笑顔が眩しくて、棘は思わず目を細めた。
むしろお礼を言いたかったのは棘の方だ。
今までおにぎりの具で話す自分に対して周りの人達は面倒くさそうにあしらっていた。
これを優しさだなんて言ってくれる人なんて一人も居なかった。
「......こ...ちらこそ、ありがとう」
気づけば感謝の言葉が棘の口から出ていて...
彼女はとても嬉しそうに、柔らかな笑みを浮かべた。
54人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
IsANe(プロフ) - とあるモチさん» コメントありがとうございます! ご期待に添えるよう頑張ります!! (2020年5月12日 1時) (レス) id: 8fefbb8a59 (このIDを非表示/違反報告)
とあるモチ - めっちゃおもしろいです棘カッコいい!!これからも更新がんばって下さい!! (2020年5月12日 0時) (レス) id: b97e9ef115 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:IsANe | 作成日時:2020年5月7日 6時