もうひとつの話 ページ7
side in
俺にはひとつ年上の彼女がいる。付き合い始めてもうすぐ一年。告白してきたのはあっち。
俺はそんなに恋愛経験があるわけではなかったし、好きだと言ってくれたのを断る理由もなく、ちょっと興味があったから、ほぼ二つ返事で付き合うことにした。
美人でスタイルもよくて、身体の相性もたぶんいい。
でもぶっちゃけ、彼女と上手くいっていない。
「なあ伊野尾、お前あの彼女とまだ続いてんの？」
だから薮にそう言われたとき、ぎくっとした。バレたんじゃないかって。
読書に集中するふりをして適当にごまかすと、話をそらすことができた。
別に隠すことではないのかもしれない。でもなんとなく、言えなかった。自分の置かれている状況があまりにもかっこ悪いから。
「なぁに、やぶうらやましいの？」
なんて言ってみるけれど。
最近は彼女と会う回数も減った。デートらしいデートも、最後にしたのはいつだろう。
お互いの予定が合う日にたまーに会って、どちらかの家に行ってそういうことをする。
こんなん恋人じゃなくて、ただのセ フレじゃん。
そう言ってやりたいけど、あいにくそんな勇気は持ち合わせていなかった。
それにたぶんあの子には、もう一人男がいる。さしずめ俺はキープってとこだ。
こんな関係、もう終わりにしたい。
でもやっぱり、それを言う勇気はない。
「戸波？ お前、具合でも悪いの？」
「ええっ、」
俺の向かい側の席で目を丸くしている後輩。
具合が悪いのとはちょっと違うように思ったけれど、その本当の理由がなんだったのかは、わからないままだ。
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作者名：碧依 | 作成日時：2016年4月30日 23時
