誰にでも urt ページ1
「あ、俺も手伝うよ」
放課後、クラスの陽キャに押し付けられた雑用をたったひとり黙々とやっている私に、彼はそう言って前の席に座り、私の机に置かれたプリントを一枚手に取った。
「これ折ればいいんだよね」
『ぁ、えと、うん』
まだまだあるね、なんて眉をハの字にして笑う彼のことが、私は好きだった。
男絡みが少ない私からしたら
優しくされることがすごく嬉しくて、気がつけば目で追うようになっていた。
でもその優しさは私だけじゃなくて
みんな、だから。
『いつも、ありがとう』
「Aさんとおれってなんかちょっとだけ似てるよね」
『え?』
「仕事押し付けられちゃうところとか。
俺もよくされるからさ、なんか助けてあげたくなっちゃうっていうか」
頭の良さでは全然違うけどね、なんて言って笑う彼を夕陽が照らす。
とても、綺麗で、心臓の音が耳に響いて
ピンク色の感情が溢れ出す。
「あ、ずっと聞きたかったことがあるんだ」
ふと、彼の声で我に帰った
「ごめん、なんか考え事してた?」
『ううん、大丈夫』
君に見惚れてました。なんて死んでも言えるわけがない。
聞きたいことって?と彼に聞くと
プリントを折りながら、あのさ、と話し始めた
「Aさんって頭いいのになんで俺と同じ高校に来たの?
いや!これは、好きなの?みたいなのじゃなくて、なんていうか、えっと、ただ疑問だったっていうか!」
わたわたとあからさまに焦るから、なんだかおかしくなっちゃって、ふふ、と笑うと
彼は驚いたように目を見開いて、照れたように柔らかく笑ったあと
Aさん笑顔の方がかわいいよ、とひとこと。
時が止まる感覚がした。
心臓が、はやい。
あつくて、唖然と彼を見つめれば視線が交わって、口が乾く
「どうした?」
『一緒の高校に行きたかったから』
「…ぇ?」
『なんでここ選んだの?っていう、さっきの質問の答え』
彼の目を見れなくて、俯くと視界の上らへんで紙を折るのを止めた手がみえたから、恐る恐る彼の方を見る
「あはは、照れるなぁ、」
そう真っ赤な顔で、誤魔化すように困り眉で笑って言ったあと、さっきまで折っていた紙で仰いだ
どうか、お願いだから。その顔だけは誰にも見せないで。
誰にでもにするのは優しさだけにして。
だけど、彼女でもなんでもないわたしにそんなこという権利ないから、今この瞬間の彼を大事に思い出にしまった
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作者名:タシア松 | 作成日時:2023年1月15日 21時