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寂しさ ページ10

軽快に跳ねるクラリネット、速いパッセージで駆け回るフルート、スタッカートで推進力を生み出すチューバ、けたたましく鳴るシンバル。

俺ー進藤海斗ーは、その音の波の一部になっている。

合奏の楽しさ、すなわち波に溶け込む楽しさを、複雑なリズムを刻みながら、今この瞬間に感じている。独りもいいけど、こうやって人と吹くのもやっぱり楽しい。

文化祭2日目の吹奏楽部のステージは、大盛況だ。渚学園や星が丘の生徒だけでなく、他校の人や部員の父兄、近所の人など多くの人が演奏を聞きに来ている。人前で吹くのも悪くない、と思った。

でも、ちょっと寂しいや。


『明日、コンサートがあるから、間に合ったら行くね』
昨日の夜、母さんとメールでやりとりをした。その時母さんは、確かに「行く」と送ってきた。でもやっぱりいない。間に合わなかったのかも。
母さんは、今は中原市内のはずれの実家に暮らし、クラリネット奏者として活動している。そして3日後にはフランスに向けて日本を発つ。今日は日本での最後のコンサートらしい。そりゃ忙しいし、来れなくても無理はないよな。
父さんは、今日も仕事だ。大手製薬会社で色々な研究をしている父さんは、「あと少しで今やっている研究の結果が出るんだ。だからあと1週間は帰れないかもしれない」と言って家を出ていって、今日で3日目だ。来られなくても仕方ない。
頭では分かっている。
分かっているはずなのに。
何だか寂しくてたまらないんだ。
それは他の部員はみんな家族が来ているのに、俺の家族は誰も来ていないし、応援してくれていないからかもしれない。周りと自分を比べて、劣等感を感じているからかもしれない。
でも、理由が気にならないくらい、寂しさが勝っている。
凉馬もショージも真帆もいるし、翔先輩や浦部くんとは一緒に吹いている。

けど、寂しい。

今楽器を吹いていなかったら、母さん!もしくは父さん!と、大声で叫び出していたかもしれない。大号泣だったかもしれない。

父さん、母さん、俺、上手くなったよ。

心の中で、誰にも届くことはない報告をして、寂しさをなんとかせき止めながら楽器を吹いた。

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作品ジャンル:純文学
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作者名:BLUE LEMON 綺 | 作成日時:2020年12月18日 22時

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