僕らの世界2 (ページ32)

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鴨がネギを…？ページ32

「ねえショージ、俺、どうしたらいいかな」
突如、海斗が訊いてきた。放課後、いつまで経っても終わらない部室の片付けをしている時だった。
俺ー東海林隼ーは、「どうしたんだ？」と訊き返した。
「いやー、実は俺、『流浪人会』ってやつにスカウトされたんだよね」
さらりと言うもんだから、「ドリンクバーの新しいドリンク飲んでみたいんだよね」くらいにしか聞こえなかった。ふーん、流浪人会にスカウトかー…

…え？！

「おい海斗、今何て言った！」
「え、だから、流浪人会にスカウトされたんだって」
「マジかよ！」
「マジだよ！」
俺は開いた口が塞がらなかった。ターゲットにしていた流浪人会が自ら近づいてくるなんて、鴨がネギを背負ってくるようなものだ。
「で、海斗は何て返事したんだ？」
「ショージに相談したかったから、考えさせてって」
「それで何て言われた？」
「明日ここで話をしようって」
俺は、ちょっと考えた。流浪人会に海斗を送り込むってことは、海斗が「BLUE LEMON」の一員として活動する時間は必然的に短くなる。それが何らかの支障をきたしかねないことを考えると、ちょっと引き止めたくなる。引き止めたい気持ちと、海斗を送り込んで流浪人会についてもっとよく知りたい気持ちが、ちょうど半々だ。送り込むかどうか、結構悩む。
「…わかった。とりあえず明日、話は聞いてみよう。それから考えても遅くないと思うから」
「じゃあ、そうしよう。…ところで、今ちょっと思ったことがあるんだけど、言っていい？」
いつも思ったことはズバズバ言ってくる海斗が、なぜか一言断ってきた。成長した？
「え、いいけど」
「言っても怒らない？」
「…うん？」
海斗は一度深呼吸をしてから言った。
「ショージは俺のお父さんですか？」
「んな訳あるか！」
「ヒドイ、言っても怒らないって言ったのに」
海斗はハンカチを取り出して、おいおいと泣く真似をした。
「いや怒ってないけど」
「何だよ、落ち込んで損した」
ケロッと表情を元に戻した海斗を見て、俺は噴き出した。海斗もつられて笑った。
ずっとこうやって笑い合っていたい、と思った。
それに、海斗はもうすぐ別の場所に行ってしまうかもしれないから、今のうちに笑い合っておこう、と思う。