僕らの世界2 (ページ17)

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母さんページ17

「…母さん」
俺ー進藤海斗ーは、音楽室のドアの前にいる母さんを見た途端にまた涙が出てきた。
「海斗、泣かないの」
母さんは優しく言った。でも、そんなの無理だ。今まで溜めていた涙が、在庫一掃って感じで出てきたから。
「先輩にお礼言っときなさいね」
「翔先輩、ありがとうございます」
俺は涙を拭ってから言った。
「なんのなんの。お安いご用だよ」
翔先輩は、本当にいい先輩だと改めて思った。
「俺、次の場所行くけど凉馬くんはどうする？」
「じゃあ僕もそろそろ行きます。
海斗、また後でな」
「じゃ、閉会式で」
先輩と凉馬は、そう言って音楽室を出ていった。音楽室には、俺と母さんだけが残った。

「…海斗、ごめんね」
ふと、母さんが言った。
「離婚の話になってから、海斗のこと放っといたり、…色々大変だったよね」
「…そのことはいいよ、それよりさ、…俺、母さんがいなくなった後、どうしたらいいんだろう…」
「そうね、ごめんね、不安な思いさせて。…でも、海斗なら大丈夫、きっと」
「…やっぱ、寂しい」
「いつでも遊びに来なさい。あとは父さんやお友達を頼って」
本当に別れるんだ、と思って、さらに涙が溢れてきた。嗚咽が止まらない。こんなに泣いたのは、いつぶりだろう。

「海斗、サックス上手くなったのね」
俺が少し泣き疲れてきた頃、母さんはステージでの演奏を評価してくれた。プロの音楽家である母さんに言われて、ちょっと嬉しかった。
「ソロ、よかったよ。趣味でやっててあれだけ吹けるなんてすごい」
「…ありがとう」
「これからも楽器続ける？」
「うん」
楽器は、俺と母さんが離れないための数少ない方法の1つだと思うから、俺はできる限り続けようと思っている。次に会う時までにもっと上手くなりたい。
「母さん、俺、頑張るから。母さんも頑張ってね」
「もちろんよ」
「閉会式始まるから、俺もう行くね」
「そう、またね」
母さんは笑顔で送り出してくれた。俺も笑顔で音楽室を出た。
そして、俺はもう母さんの前では泣かないと心に決めた。
迷わないようにしっかり前を向いて、広場へ歩いていった。