優しさ・1 ページ13
「お疲れー」
「よかったよ、演奏」
そんな話をしながら、楽器を片付け終わった両校の吹奏楽部員が音楽室からゾロゾロと出てくる。僕ー伊達凉馬ーは、他の人と一緒に音楽室の前で海斗を出待ちしている。
海斗は本番中に何かがぶっ壊れちゃったみたいに泣き出して、今は音楽室でクールダウンしているようだ。何があったのか知らないけど、僕は心配になって駆けつけたのだ。
その時、部員の行列が途絶えて閉められていた音楽室のドアが突然開けられた。
そこに立っていたのは、翔先輩。慌てた様子で出てきて、僕を見るなり「ワッ」と驚いて、つられて僕も「ワッ」と驚いた。その後、
「凉馬くん、ちょっと助けて」
と僕に助けを求めてきた。僕は何が何だかよく分からないまま半ば強引に音楽室に引きずり込まれた。
「ほら、あの通りなんだ」
翔先輩の目線の先には、フロアの隅でうずくまっている海斗がいた。肩から翔先輩のものらしき紺の上着をかけていて、震えているように見える。
「海斗?」
僕はおそるおそる声をかけた。が、返事はない。
海斗の隣に座り、肩に手を置くと、軽く振り払われた。こいつ、どうしたんだ?
「海斗、何があったの」
「…なんもない」
吐き捨てるように言った。でも声が震えている。嗚咽も聞こえる。顔を自分の足にうずめているので表情は分からない。
「…大丈夫?」
「…」
ノーリアクション。
「何で泣いてたの?」
「…」
これもノーコメント。翔先輩の方を見ると、あきれた顔で肩をすくめた。
「海斗、」
名前を呼んでも顔を上げてくれない。
試しに手を握ってみると、海斗は僕の手を握り返してきた。
「僕でよければ、話聞くよ」
「…」
「別に、話したくないならいいんだけどさ」
「…だなって」
「え?」
「いや…寂しかったんだなって」
「寂しかった?」
海斗は頷いた。
「ステージ、母さんが見に来てた」
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作者名:BLUE LEMON 綺 | 作成日時:2020年12月18日 22時