夢とソロと波と、それから ページ12
ソラソファソー、
ソードーレドシドシララーソーソー、
…クラリネットの音。母さんの音。
…この曲、なんだっけ。
…この続き、どんなだったかな…
今朝、変な夢を見た。ぼんやりしていて、でも音だけがはっきりしている、変な夢。
小さい頃によく母さんが聞かせてくれた曲がどこかで聞こえる。母さんのクラリネットの音がする。懐かしくて、暖かい。
起きた時、なぜか泣いていた。そして、ボケッとしていたら遅刻した。
俺ー進藤海斗ーは、今朝の不思議な体験を思い出しながらステージでサックスを吹いていた。この曲の真ん中へんで俺のソロがあるけど、母さんはまだ来ていない。やっぱり間に合わなかったんだ。
でもショックを受けている場合じゃない。ソロがある。集中しなきゃいけない。
俺は席を立って、楽器を構える。周りでは、他のパートがそれぞれ動めいていて、俺のソロに向けてムードを盛り上げている。
ここからは、「波に溶け込む」んじゃなくて、「波に乗る」。何度も練習したから大丈夫だ、と自分に言いきかせてから音を出す。
波に乗れ!乗れ!乗れ!
勢いをつけて駆け上がれ!
飛べ!
走り回れ!
楽器と一心同体になったような気分で一気に吹ききった。あっという間だった。礼をした時の拍手で、成功したということを知った。
…母さん?
礼をして席につこうとした時、人だかりの後方に母さんがいたように見えた。いや、いる。母さんがいる。
やっと席につくと、涙が出てきた。ソロが上手くいったのと、それを母さんが見ていたのと、何より母さんが来てくれたから。隣の浦部くんが心配そうな目を向けているけど、涙を流しながら吹き続けた。音が震えた。でももういいや。どんなに不格好でも、ソロが大成功だったことに変わりはないし、母さんはどんな時も俺を肯定してくれた。だから、
大丈夫だ。
そう信じて、吹き続けた。
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作者名:BLUE LEMON 綺 | 作成日時:2020年12月18日 22時