最後の日 ページ2
こういうの、「空虚」っていうんだろうな。
俺ー東海林翔ーは今、星が丘学園の広場にあるベンチに座っている。空を見上げれば、雲1つない快晴。嫌になるくらい清々しい。そして隣には、俺の相棒。
相棒、今日でお別れだ。
俺がトロンボーンをやめるまで、あと4時間。タイムリミットが迫っている。
え?なぜやめるかって?そりゃあ、まあ、挫折だね。挫折。中学の頃からプロを目指してた。マイ楽器を買ってもらった。ドイツに留学もした。
でも、そうやって自分の限界を知った。
今まで目を瞑ってきた自分の弱みが、上を目指していくほど取り返しのつかないものになっていった。
あの時こうしていれば、あの日もっと頑張っていれば。
そう思って何度も後悔した。ソロコンテストの全国大会で銅賞だった時も、練習不足と先生に言われた時も、留学して最初のステージのオーディションに受からなかった時も、後悔した。目が真っ赤になるほど泣くこともあった。
でも、それが自分の現状なんだってよく分かった。自分ならなんとかできると思って、自分を過信していたことも。
まあ、相棒と出会ってかれこれ4年、色々と学んだ。「音楽を通して人間的成長」という中学の時の吹奏楽部の目標も、たぶん達成できたんじゃないかな。中学の時に受けていた文化部ヘイトも、相棒がいたから乗り越えられた。音楽に、トロンボーンに、救われた。
ありがとう、さようなら。
「兄貴、おい、何してんだよ」
ボーッとしていたら、突然現実に引き戻された。せっかくいい感じだったのに!隼、許すまじ!
「兄貴、変な奴にしか見えない」
「失礼だな!どこがだよ!」
「ベンチでボーッとしてる所」
…ぐうの音も出ない。
「兄貴、本当に楽器やめるの?」
「…ああ」
隼はちょっとシュンとした。でもすぐに元の表情に戻って言った。
「…頑張ってね、ステージ」
俺は楽器を持って立ち上がった。
「もちろんだ」
そう言って隼の頭をわしゃわしゃと撫でてやった。こいつ、いつの間に背伸びたな。
「やめろ、禿げる」
俺の手を止めようとしてるけど、顔は笑っている。
「禿げたら坊主にでもしろ」
「じゃあ兄貴も責任取って坊主にしてよ」
「あ、前言撤回」
隼は、かわいい。兄弟のひいき目抜きで。明日から、心ゆくまでかわいがってやろう。
「じゃ、俺行くよ」
「そう。じゃあね」
「おう、ステージ見に来いよ」
「当たり前じゃん」
俺はもう迷わない。未練もない。決別までの残された時間、有意義に過ごそう。
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作者名:BLUE LEMON 綺 | 作成日時:2020年12月18日 22時