隠し事 ページ39
「久しぶり」
先輩は、僕ー伊達凉馬ーに向かってニッと笑ってみせた。相変わらずショージにそっくりだ。
本格的に夏がスタートして、翔先輩は僕を遊びに誘ってくれた。僕でいいのかと思ったけど、「受験前の遊び納めだ」なんて言われたら、断れるはずがない。
「そろそろ凉馬くんに身長抜かれるかも」
先輩は親みたいなことを言っている。3年生になってからは1度も会っていないから、結構久しぶりだ。
「付き合ってくれたお礼に飯奢るよ」
「えっ、いいです」
「遠慮しないで」
「いえいえ」
「いやいや、今日は奢らせてよ。今後凉馬くんと食事することがないかもしれないし」
「すみません」
奢る奢らない論争は、僕が折れて終結した。
「…じゃなくて?」
「ありがとうございます」
このやりとり、去年の秋にもした。「ありがとうでいい」という言葉をかけてもらったけど、まだまだ慣れない。
「行こうか」
僕は、先輩に引っ張られて市街地を進んだ。
ゲーセンや古着屋を回って、気付けば正午を過ぎていた。
「腹減ったな…何か食べたいものある?」
先輩は、おいしそうな店を探しながら尋ねてきた。
「僕は何でも」
「ご飯?パン?麺?」
「…パンで」
「よし決定」
先輩は、人混みをスタスタと歩いていく。僕もはぐれないように後を追う。
僕たちは、先輩の行きつけだという喫茶店に入った。朝にコーヒーを頼めばパンや卵がついてくるような店だ。僕はサンドイッチ(思ったより大きい)、先輩はグラタンを注文した。先輩は案の定暑い暑いと言いながら食べていた。
2人とも食べ終わった頃、先輩は思い出したように突然話を始めた。
「バレちゃったんだよね」
「…?」
僕が首をかしげると、先輩は右手をヒラヒラさせた。
「腱鞘炎。親にバレた」
やっぱりニッと笑っているけど、少し辛そうだった。
「サポーターしたまま半袖のシャツ着ちゃって、見つかった。やっちまったよ。口止めまでして隠してたんだけどなぁ…なんかごめんね」
「いえいえ」
「でも心配しないで。もうほとんど大丈夫だから」
やっぱり、無理をしたような笑顔だった。僕は何と返すかたくさん悩んで、
「お大事に」
とだけ返した。
「ありがとう」
先輩は、アイスコーヒーの氷をかき回しながら言った。
「今じゃなくていいんだけど、愚痴聞いてもらいたいよ。凉馬くん聞き上手だし」
「遊び納めじゃないんですか」
と訊くと、
「遊ぶのと愚痴聞いてもらうのは別だから」
という屁理屈で返された。
ストローでコーヒーを混ぜる先輩の右手首は、一部だけ帯状に白かった。
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作者名:BLUE LEMON 綺 | 作成日時:2021年5月18日 20時