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会場の医務室に運ばれた二人を泣きながら心配する四葉。
零は思う。四葉の泣き顔を見たのは何年ぶりだろうか。中央区から連れ出してから、四葉には相当大変な思いをさせてきたと思う。すっかり大人びてしまった四葉はいつしか泣かなくなっていた。
そんな四葉が流した涙は、俺たちのための涙だった。それが何よりも嬉しくて、心の底から愛おしいと思うのだった。
「あんまり泣きすぎるとせっかくの可愛い顔が台無しだぞ。安心しろ、簓も盧笙も少し休めば目が覚める。死にやしないさ」
零の言葉に少し安心したのか、少し落ち着きを取り戻す。しかし、四葉は抱きついたまま離れようとしなかった。
久々に甘えてきた愛娘を父はそっと抱きしめ続けた。
「ん……あれ、試合は……」
先に目を覚ましたのは盧笙だった。
脇においてあったメガネを見つけるとそのまま掛ける。これはダテだが、盧笙にとっては手放せない物なのだ。
「負けたよ」
「そうか」
盧笙は悔しそうな顔を見せるわけでもなくふっと笑った。
「いや、悔しいよりも清々しいんが不思議なんや。全力でやり切った。悔いは無い……」
やはり悔しさが込み上げてきたのか、眉間に皺を寄せ俯いた。
しばらくして簓も目を覚ます。
彼は落ち着いており、自分が倒れたことによって負けたことを2人に詫びた。
「お前のせいやない!それは断じて間違うてんで。」
「あぁそうだ。俺たちは全力を出し切った。初出場にしちゃあ、だいぶ健闘したはずだぜ」
盧笙と零のフォローにより徐々にいつもの調子に戻る簓。
「せやな!クヨクヨしてる場合ちゃう!前向いて先に進まなあかんね!」
その言葉に3人は頷く。
「それにしても、なんやそれ。」
簓の指さした先は零。腕の中には泣き疲れて眠ってしまった四葉が、零の上着に包まれて毛玉と化していた。
「あ?この毛玉はケセランパサランだ」
「アホ!四葉なんは分かっとんねん!その状況を聞いてんのや」
あぁ、と零は理解し状況を説明した。
「こないにおとんに甘えてんのは珍しいな」
「普段は我慢してたんやろ。」
父の腕の中で眠る四葉の顔は心做しか幸せそうに微笑んでいた。
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作者名:蒼依 | 作成日時:2022年12月11日 21時