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他愛もない話をしながらベンチで待っていると時間はあっという間で、そろそろ開場の時間のようだった。
ここも関係者しか立ち入れないエリア。そのため一般の観客の人たちと遭遇することは無いから、試合の開始時間ギリギリまで待機する。
すると、向こうからヒールの音が響いてきた。
「おや、こんなところにわざわざいらっしゃるとは…」
その人は4人の目の前で立ち止まる。
「勘解由小路無花果さん…」
独歩と一二三がグッと身構える。
現政権のNo.2が試合直前になんの用だろうか。
まさか、観戦席に居ない麻天狼を呼びに来たわけではあるまいし。
「如何……なさいましたか?」
寂雷が口を開くと、無花果は不機嫌そうに口を開いた。
「お前らみたいな野蛮な男に用は無い。用があるのは…」
「四葉、お前だ」
この場にいる無花果以外の全員がどよめく。
「え、わ、私……?」
「あぁ、そうだ。着いてこい。」
「いや、でも、この後お父さんの試合を……」
高圧的な無花果に縮こまる四葉。しかし無花果の口から出てきた言葉は意外なものだった。
「だから、その席まで連れてってやるつってんだ。」
「「「「え」」」」
無花果以外の3人は呆気に取られ空いた口が塞がらなくなる。
「あぁもう、早く来い!時間が無い!」
無花果が四葉の手を取り、無理やり連れていく。
「ちょっと、その子は……」
「お前らは黙ってろ。四葉についてはお前らより私たちの方がよく知ってる。口出しするな。」
四葉は訳が分からないまま無花果に手を引っ張られて関係者用の扉に入っていった。
残された麻天狼の時が動き出す。
「え、ちょ、あれ、大丈夫なんですかね!?!?」
「どうやら訳ありのプリンセスだったようだね」
慌てふためく独歩とホストモードの一二三。
寂雷はなにやら考え込んでいるようで口を開くことは無かった。
「あ、てかもう四葉ちゃんいないからジャケット脱げよ一二三」
独歩にジャケットを剥がされた一二三はいつもの一二三に戻る。
「うーわっ!まーじでびっくりした!四葉ちゃん、あのこわーい人と知り合いなんすかね。」
ね、センセ!と一二三に振られようやく寂雷が口を開く。
「さぁ……。でも、彼女はきっと大丈夫でしょう。ここは中王区。女性には優しい世界なんですから。
さ、私たちもそろそろ行きますよ。」
はーい、と寂雷の後をついて行く独歩と一二三。
2人からは見えない寂雷の顔は酷く険しいものだった。
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作者名:蒼依 | 作成日時:2022年12月11日 21時