生い立ち、そして―。 ページ2
.
宝石魔術。御三家が使用する魔術故かその名を聞けば身構える者もいると聞く。
そう。血筋を重視し、妄信し異常な程に固執したのがまさに肉親であったわけだが、その末路は言葉にするまでもない。
そんな環境の元、生まれつき魔術の「ま」の字にも関心を示さず幼き頃より見限られた子供。まさにその当人が、此度の物語の主人公"志月 蒼"である。
家にもろくに居着かず、我が家と呼ぶに正しかったのは祖父母が待つ家のみ。妹には申し訳が無い気持ちがなかったわけではないが、この身あっての物種。彼に"献身的"という言葉はおそらくないといっていいのだろう。
「僕は、魔術に身を焦がして死ぬだなんて御免だ。」
そんな彼が執心したのが、祖父の職業。所謂刀鍛冶であった。
刀を打つ時間が彼の憩いの時間だと言っても過言ではなく、ひとり物思いに耽るときは決まって刀を打った。
だからといって、彼だって年齢相応の趣味はある。
月に1度は決まって球場を訪れ、野球観戦を行うこと。
だからといって選手に憧れ部活動やサークルに入るというわけではないのは、プロとしての誇りを持ち懸命にプレイする志に関心があったためだ。
「僕はひとつのことにあそこまで執着できるだろうか」
まともに夢中になれたものもなく大人になってしまった自分を振り返る機会を得たのが、祖父の死。
死に際に放たれた言葉が今も耳から離れない。おそらく、祖父にはすべて見透かされていたのだろう。
とはいえ、やりたいことなどそう簡単に見つかるはずもない。
執着という言葉を一番に嫌っていたのが紛れもなく志月自身であったわけだし、唯一長く続けている刀鍛冶の修行が本当にやりたいことだと確信も持てない。
そこまで深く考えることでもないとは思うが、これがどうしてか志月には難しかった。
そんな時分、彼の元を訪れたのが"マリスビリー・アニムスフィア"。
『最高級の"玉鋼"を準備しよう。だから、私の機関に来ないか』
志月の人間性を的確に分析しての勧誘の言葉であったと、出会ってすぐに確信した。
全く食えない大人だと溜息をつきたくもなったが、まともな魔術師に出会うほうが稀。
であれば、この大人の手をとってみるのもまた一興かと。
「
にやりと口角をあげる志月に対し、男性は「それで構わないさ」と腹を抱えて笑うのだった。
2人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ