伝えたいこと ページ31
ピンポーン、と不意にチャイムが鳴った。
窓から吹き込んでくる秋の夜風は、もう半袖で過ごすには少し寒いほどに冷えている。
インターホンから聞こえたのは、随分と久しぶりに聞く声だった。
「場地くん、どうしたの……?」
白いジャケットに身を包み、長い髪を靡かせている場地くんにそう聞いても、答えはしばらく返って来なかった。
「……悪ぃ、急に。間違えてるんじゃねぇかって、不安になって、お前ならどうするかなって考えてたら、ここ、来てた」
「気分転換に、散歩でも……する?」
「長袖来てこいよ、ケツ乗せてやる」
その言葉に首を傾げると、場地くんは背後のバイクを顎で示した。
「うわぁ……すご、速い」
「だろ?俺の
ゴキ!?と思わず反応した私に、愛称だよバーカと場地くんは笑った。
場地くんは思う存分走ったのか、海の近くでバイクを停めた。
「ありがとな付き合ってくれて。やるよ、お礼に」
場地くんが無造作に投げたココアを慌ててキャッチする。
「わっ、ありがとう。バイク乗るの、初めてだったけど楽しかったから平気だよ。…まあ、ちょっと怖かったけど」
そーかよ、と笑う場地くんにつられて私も笑っていると、街灯の微かな明かりに照らされた場地くんの手が腫れているのに気がついた。
「場地くん、手どうしたの?喧嘩?」
「……ちょっとな」
「早く言ってくれれば手当てしたのに」
「別にいーよ、手だけだし。……それに、これは俺がちゃんと受けなきゃなんねぇ痛みだから」
前と同じ、思い詰めたような表情に、それ以上突っ込むことはできなかった。
その後は、取り留めもない話をずっとしていた。
あの先生がどうだー、とか、猫が可愛いだとか。
いつものくだらない日常。
長い時間潮風に吹かれていたせいか、思わずくしゃみが出た。
「さみぃ?」
「……んーん、あったかいよ」
「くしゃみしてんのに変なヤツ。そろそろ帰るか」
私の家に着くまでは、あっという間だった。
「不安、無くなった?」
「おう、バッチリ。目的、改めて思い出せた」
「なら良かった!おやすみ、場地くん」
「じゃーな、風邪ひくなよ」
またバイクに乗って走り去っていく場地くんの背中を見ながら、ふと場地くんの誕生日が近づいていることに気がついた。
ねぇ、その時にはちゃんと濁さずに言えるかな。
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碧葉(プロフ) - かのんさん» ありがとうございます!!そう言って頂けてとても嬉しいです! (2021年8月13日 6時) (レス) id: 3b7c38c624 (このIDを非表示/違反報告)
かのん(プロフ) - 見てて楽しかったです!更新頑張ってください!場地さんかこかわすぎ…でした… (2021年8月12日 20時) (レス) id: dda0942623 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:碧葉 | 作成日時:2021年8月12日 17時