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「あかん。ちょっともう、無理や。」



ため息、というより嘆きに近いようなタツくんの吐息がセミの鳴き声の中に投げ出された。


突然立ち止まったタツくんにわたしも足を止める。


さっきよりも確実に空が暗い。なのに暑さはちっとも変わらない。タツくんはふつうの人よりずっと夏に弱いように思うけどたしかにじっとりとしたひどい暑さだった。



「…アイスやな。」


ぼそりとつぶやいたタツくんの視線の先。ちょうど、数歩先。道に沿ってコンビニがあった。


「アイス、食べよ。」


そう言ってタツくんはコンビニに向かって歩き出したからわたしも後を追う。



自動ドアをくぐり抜けると冷房のつめたい空気とコンビニ特有の独特な香りにひと息につつまれた。コンビニってなんだかちょっと甘いにおいがする。


アイスの売り場は一番奥で、近づくにつれてより空気がひんやりしていった。涼しいというより、寒い。サンダル履きで裸の指先が既に外の暑さを恋しがっていた。



「俺これにするわ。Aちゃんは?」


タツくんは冷凍庫のワゴンの中を数秒じっくり見ると黄色い袋を手に取った。パイナップルバー。果肉入り。パイナップルの写真が袋におおきく印刷されている。


「じゃあ…これにする。」


「めっちゃ王道やな。」


一番最初に目についたソーダ味のアイスを持ち上げると、タツくんはそう言ってにやりと笑う。



貸して、とアイスの袋をわたしの手から取ると、タツくんはレジに向かった。


レジカウンターに無造作に置かれたふたつのアイス。タツくんが番号を言うと店員は背後のおびただしい数の煙草のパッケージの方を振り返る。


レジの前に設置されたテーブルのようなものの上には蚊取り線香と虫除けスプレー、それから手持ち花火のバラエティパックが何種類か並んでいた。夏の特設コーナーなのか、紙に手書きで値段と花火の絵が書いてある。



こんなたくさんの花火、どれだけの人数でやったら夏中に消費しきれるんだろう。

いろんな柄の棒がたくさん入っているパッケージをぼんやりと見ながらそんなことを考えていたら、


「あ、すいません、あとこれも。」


目の前をタツくんの腕が横切って、花火をひとパック、持ち上げたかと思ったらカウンターの上にぱさりと置いた。




・→←「手持ち花火とかたまった夜」



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蒼 夢見子(プロフ) - もんさん» もん様、しばらくぶりの更新にも関わらず読んでくださりありがとうございます…素敵な感想までいただけて嬉しいです…(涙)気まぐれな更新になってしまっていますがお付き合いいただけるように更新頑張ります…! (2022年2月6日 14時) (レス) id: d76122eb40 (このIDを非表示/違反報告)
もん(プロフ) - 更新とても嬉しいです、蒼さんの作品がどれも切ないのに心が暖まって大好きです。 (2022年2月6日 1時) (レス) id: 88e425fb34 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 日玖さん» 日玖様、コメントありがとうございます。(お返事がひどく遅れてしまい申し訳ありません…)そう言っていただけてとても嬉しいです。更新が途絶え気味ですがなんとか最後まで書けるよう頑張ります…! (2022年2月5日 16時) (レス) id: 0bca9b395c (このIDを非表示/違反報告)
日玖(プロフ) - コメント失礼します!つい先日このお話にたまたま出会い、あまりにも好きすぎて一気読みしちゃいました……!続き、楽しみにしてます。これからも応援してます! (2021年10月12日 11時) (レス) id: bbffd7f7da (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - しずくさん» しずく様、初めまして。コメントありがとうございます。書き始めてからたくさん時間が経ってしまい更新も気まぐれで申し訳ないですが、あたたかいコメントいただけて本当に恐縮です。これからも読んでいただけるよう頑張ります! (2021年7月19日 20時) (レス) id: 7499a18546 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2019年12月5日 23時

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