「手持ち花火とかたまった夜」 ページ29
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店から出るとたしかに日はかたむき始めていたけど、日中の強い日差しに充分すぎるほど熱されたアスファルトから立ちのぼる熱気でむしろ夕方のほうが暑いような気がした。
日がかたむけば涼しくなるのを見越して家を出てきたけど、意味があったかはわからない。
「ほんまにこんなんでええの？」
タツくんは暑さにまた顔をしかめてからわたしに訊いた。
歩くたびにわたしとタツくんが持つレジ袋たちはそれぞれガサガサと音を立てた。
「スーパーなんかより、ショッピングモールとかカフェとかそういうほうが女子高生は好きなんちゃうの。」
まあ、どうせ行かなあかんかったから俺はええんやけど。とタツくんは肩にかけていたレジ袋をもう一度肩にかけ直した。
タツくんの長い首筋には汗が滲んでいるのが見えて、わたしは視線を逸らす。
——午後、どっか行く？
今日の昼間にそう言い出したのはタツくんだ。
——どこかって？
わたしはお箸で黄色い麺と一緒に細切れのきゅうりを掴もうとしていたところだった。タツくんの作る冷やし中華はとても豪華で、トマトときゅうりとみょうがと錦糸卵、それからハムじゃなくてちゃんと焼き豚がのっている。
タツくんの家でお昼に食べる、素麺とか冷やし中華とかおそばとかのつめたい麺が好き。正しい夏休みの昼ごはんという感じがして。
——行きたいとことかしたいこととかないん？高校生最後の夏休みやん。家ん中ばっか退屈やろ。
そう言って、タツくんはずず、と麺をすすっていた。
夏休みが始まって二週間、文字通り、わたしはタツくんの家に入り浸っていた。
ママが仕事の日はもちろんのこと、仕事が休みの日も友達の家に行くと言って、タツくんの家で夏休みの課題をしたり本を読んだり映画を観たりして過ごした。タツくんにもらった合鍵を使えるだけ使って。
退屈だなんて、すこしも思ったことがない。
それどころか今までのどの夏休みより満たされていた。
それでタツくんからの提案に決めあぐねたわたしが選んだのがスーパーで、アパートから徒歩10分とすこしのスーパーに行ってきたのだ。
タツくんは不思議そうにするけど、スーパーに行くのはたのしい。
タツくんが時々なにか悩みながら商品をかごに入れていくのをとなりで見ているのも、レジ袋に買ったものを詰めるときに順番をよく考えるのも。
それは多分ひとりじゃなくて、誰かが一緒だからなのかもしれない。
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蒼 夢見子(プロフ) - もんさん» もん様、しばらくぶりの更新にも関わらず読んでくださりありがとうございます…素敵な感想までいただけて嬉しいです…（涙）気まぐれな更新になってしまっていますがお付き合いいただけるように更新頑張ります…！ (2022年2月6日 14時) (
レス) id: d76122eb40 (このIDを非表示/違反報告)
もん(プロフ) - 更新とても嬉しいです、蒼さんの作品がどれも切ないのに心が暖まって大好きです。 (2022年2月6日 1時) (レス) id: 88e425fb34 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 日玖さん» 日玖様、コメントありがとうございます。(お返事がひどく遅れてしまい申し訳ありません…)そう言っていただけてとても嬉しいです。更新が途絶え気味ですがなんとか最後まで書けるよう頑張ります…！ (2022年2月5日 16時) (レス) id: 0bca9b395c (このIDを非表示/違反報告)
日玖(プロフ) - コメント失礼します！つい先日このお話にたまたま出会い、あまりにも好きすぎて一気読みしちゃいました……！続き、楽しみにしてます。これからも応援してます！ (2021年10月12日 11時) (レス) id: bbffd7f7da (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - しずくさん» しずく様、初めまして。コメントありがとうございます。書き始めてからたくさん時間が経ってしまい更新も気まぐれで申し訳ないですが、あたたかいコメントいただけて本当に恐縮です。これからも読んでいただけるよう頑張ります！ (2021年7月19日 20時) (レス) id: 7499a18546 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蒼 夢見子
| 作成日時：2019年12月5日 23時
