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「ほのかに揺れだす境界線」 ページ20









「携帯鳴っとんで。」


カウンター越しの信ちゃんは箸立てに箸をきっちり詰め込みながら俺に目配せをした。

俺はたしかにカウンターの上で振動している携帯を横目で見て、だけどそれから、れんげで皿に半分になった炒飯をすくった。



「…ええねん、母さんやから。」


すこし乱暴に炒飯を口に運んで、咀嚼する。


電話の内容は想像ができた。

最近どうしてるん、たまには帰ってくればええのに。

あまり感情のこもっていないような口調で母親(あのひと)はそう言うに決まってる。いつもそうや。


「出るだけ出たったらええやんか。」


困ったような顔で俺をうかがう信ちゃんに、俺は構わず炒飯を頬張った。


「出たって話すことなんてないわ。」


最後に親子らしい会話を交わしたのは一体いつだったか、思い出せない。そもそも、親子らしい会話なんてしたことがあっただろうか。



珍しく午前中から大学の研究室に行った帰りになんとなくここの炒飯が食べたなって、帰り道にバイト先でもあるこの店に寄った。

平日の昼飯の時間帯を過ぎるとこの店は途端にさびしくなる。

店主――信ちゃんのお父さんで、信ちゃんが中学生の時に脱サラしてこの店を作ったらしい――も奥にいて、店には信ちゃんと俺だけやった。


厨房の換気扇ががたがたと音を立てて激しく回るのをぼんやりと視界に入れながら、食べ終わった炒飯の器を左によけると灰皿を目の前に引き寄せた。


「どうするん。これから。」


煙草を出して、咥える。信ちゃんは、手を止めて俺を慎重に見ていた。


「このまんま生きていかれへんやろ。」


生きていく。その言葉は俺にとってあまりにも漠然としていて、それでいて暴力的でもあると思う。

なんの目的もないのに、生きていけるんやろうか。



「別に来年もここで働いてもらうんは俺も親父も一向にかまへんけど、タツはそれでええんか。」


煙草を指で軽く叩いて灰皿に灰を落としながら、「それは」と呟く。


「それは…わからへんけど、信ちゃんには迷惑かけへんようにするから。」


信ちゃんは困った顔でまだ何か言いたそうやったけど、店の扉が開いて新しい客が入ってきて、俺はどこかひどく安堵した。






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蒼 夢見子(プロフ) - みぃちゃん。さん» みぃちゃん。様、お久しぶりです!いつもコメント下さりありがとうございます…!1,2通しても登場人物たちの気持ちの変化があまりにも微動すぎて申し訳ない気持ちになりますが、3はもうすこし動かせると思うのでお待ちいただけるとありがたいです^^ (2019年12月4日 15時) (レス) id: c01abe0da9 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - なのはなさいたさん» なのはなさいた様、初めまして。更新頻度もすくなく、物語の展開もおそい退屈な話ですが、読んでいただけてうれしいです…。ありがとうございます(涙)引き続き楽しんでいただけるようにがんばりますね!! (2019年12月4日 15時) (レス) id: c01abe0da9 (このIDを非表示/違反報告)
みぃちゃん。(プロフ) - お久しぶりです!今回もワクワクしながら読ませて頂きました^ ^ いったい、みんなの気持ちがどんな風に動いていくのかなぁ…と思っています〜また読み返しながらゆっくり更新待ってます^ ^無理せず頑張って下さい! (2019年12月3日 0時) (レス) id: 45454de63e (このIDを非表示/違反報告)
なのはなさいた(プロフ) - 初コメです!いつも楽しみに読ませてもらってます!これからも応援しております(o^^o)更新ゆっくりでもいいのでお待ちしてます! (2019年11月30日 13時) (レス) id: 9a9c48371e (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - さらささん» さらさ様、あたたかいコメントありがとうございます。えっ3回も飽きずに読んでくださっているのですか…(涙)とてもうれしいです…これからも頑張って書いていこうと思えます…こちらこそ、ありがとうございます! (2019年9月17日 8時) (レス) id: 1f320f9766 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2019年5月8日 23時

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