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人間が人間に罰を与える。特に今の事例ではただ尊大なことなのかもしれない。
けれども身近な人を失った時に、ちらとでも自分のせいだと思わない人は少ない。
あの時ああしていればもっと何かできたはず、もっと話せたはず、もっとそばにいられたはず…。
俺は相原さんの死に直面した時も、実の父の死に立ち会った時もずっとそれを感じていた。
父さんもきっと俺がそう感じていると思っていたから、ずっと笑ってくれていたのだと思う。
医師として、目まぐるしいほどに患者さんが入れ替わり立ち替わりしても、やはり死を見れば《何かできたはず》だと感じざるを得ない。
でも、幸いなことに俺たちはその《はず》を他の患者さんに振り替えて再び《はず》など感じないように手を尽くすことができる。
逆を言うなら振り替えることができない人は《できたはずなのにしなかった》という《罪》に囚われてしまうかもしれない。
ならばこれから先も生きていける《罰》を。
亡くなった人の死ではなく、生きた時間を見つめてほしい。
父さんと過ごした最後の日々は短かったけれど楽しかった。
父さんは心から笑っていたもの。
俺が医師として息子としてそばに寄り添っていることを喜んでくれていた。
その時間は、父さんの研修医仲間だった先輩達が作ってくれたものだったし、母さんも義父も黙って見守ってくれていた。
それはきっと父さんの生きた時間が輝いていたから。
父さんの輝いていた命が様々な人を繋ぎ合わせてくれたからできた時間だった。
『……周芳野先生?』
不意に奥邑さんの手が伸びてきて、そっと指で俺の頬を拭う。
どうやら俺もボロボロと泣いていたらしい。
『…ごめんなさい。俺まで泣いちゃった。』
『…すぐ泣いちゃうとこは似てないかな。』
そうひとりごちると奥邑さんは、反対側の頬も拭ってくれた。
大きな手が温かくて、触れたところから頬が熱くなる。
『い、石馬さん。病室に帰りましょう。』
なんとも気恥ずかしくなって、立ち上がり手を伸ばすと石馬さんは濡れた顔を上げた。
『俺は出頭します。島を…斡旋業者を刺しました。』
そうだ。そちらの問題も残っていた。
彼はその罪も償わねばならない。けど治療は…?
『……はぁ。ちかれた〜!出頭の意志はあるがしばらく動かせないって警察にゃ連絡しといたぞ。逃走の可能性がなければ事情聴取は病室で行うってさ。』
『…北山先生!』
振り返ると北山先生が息を切らせてしゃがみ込んでいる。
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作者名:みあん | 作成日時:2023年2月26日 1時