白い祈り (ページ45)

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目を伏せた奥邑さんの笑みは寂しげだ。
長い睫毛がふるりと揺れる。

『脳動脈瘤を抱えていることが分かってからは、もっと明るくなったよ。残念ながら発見した時には１０ミリ以上、手術するにもかなり難しいところにあるとかで…ここ数年で意識を失うことも増えてきていた。いつそれが破裂するか分からない不安や恐怖と戦いながら生きているのにな。
だから守りたくて…守らせてほしくて、何度も告白したらやっと付き合えた。親友には睨まれちゃったけどね。』

脳動脈瘤は、脳に張り巡らされた動脈の一部が何らかの理由で弱くなり血管に膨らみができる症状で、２０人に１人は持っているとされるが、大抵は気付くことなく無症状で生活できる。しかし、くも膜下出血の８割以上は脳動脈瘤の破裂が原因だ。
大きさが１０ミリ以上なら５年以内に破裂する可能性が５０パーセント以上とも言われ、破裂する前に手術などの治療を行うのが一般的となる。
ただし手術が難しいことも多い。動脈瘤が脳神経を巻き込む形で広がっていたり他の血管と癒着している場合は手術をしない場合もあるのだ。
意識消失が起こるならかなり大きくなっているのだろう。脳、または神経を圧迫する大きさになってきたということだから。

『…でも付き合い始めて有頂天になってたら、結局すぐにフラれちまった。

《心配や不安で束縛するのもされるのもイヤなの》って笑ってた。

俺は優しすぎるんだってさ。元々心配症なんだよね、俺。
もし自分が死んでもなかなか忘れずに引き摺ってしまうだろうからダメ。死なずに生きられるとしても、お互いに生きることに前向きになる為には、自分が安心して死ねるくらいがいいらしい。

…石馬さん？あんたも俺と同じなのかもな。』

そう言って石馬さんを見る。

『なあ、誰にも責められないその罪の意識が辛いなら、あんたへの罰は俺が決めてやるよ……。』

少しだけ顎に指を当てて、奥邑さんは微笑んだ。

『そうだ。あんたへの罰は生きることだ。息子さんたちの命が《輝いていた》と証明すること。

方法は自分で決めればいい。息子さんたちだって、残った者が死に束縛されることは望んでいなかったはずだろ？
彼らがどれだけ懸命に生きていたか、どんな喜びを味わって生きていたか…それを探して生きるんだ。あんたしか知らない、あんたにしかできないことだよ？？』

『……ああ、ああ、ああ……っ！』

石馬さんの涙が変わった。
激しく嗚咽を漏らしながら、慟哭し始める。