白い祈り (ページ5)

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できれば入院させられているのではなく、人生の大切な通過点として捉えてくれるとありがたい。

研修医時代、俺の良さは《丁寧に患者と向き合うこと》だと今まで出会った先生方に言われてきた。《顔を読む》というか、その心の動きから治療の糸口を見つけるのも《橋渡し役》にはいい才能かもしれないと。
むしろ入り込みすぎると以前研修の時に心療内科の主任には言われた。だから心療内科には向いてないのだそうだ。
実父の死に医師として立ち会ったこともそれに拍車を掛けたらしい。

ま、診察に時間が掛かると迷惑なので、外来ではなるべく抑えてはいるんだけど…。

２階の診察室に走って戻ると、たくさんの人々が待っていた。

………さあ、今日も誰かの身体と心の声を聴く時間が始まる。
頑張るぞっ！！

予約も含めた外来を終えると、１５時を回っていた。
軽く昼飯を食べれば、午後は回診が待っている。

………はふ。いい天気だなぁ。
去年はドクターになって１年目だったし、窓から外を見る余裕もなかったわ。
今度の休みこそ釣りに行こう！もうしばらくご無沙汰している。釣り方忘れちゃうよね。テグスの作り方思い出さないと。

と、魚肉ソーセージを齧りつつ何気なく下を見下ろした。
あ、また奥邑さんが中庭を歩いている。
一緒に歩いているのは…うちの北山先生だ。
若手ながらこちらの新病院の循環器内科で１年目の主任に抜擢されたデキル男。

うちは毎年交代制で主任を務めなければいけないが、病院の未来を占う開設時に先鋒に選ばれたのは揺るぎない実力の証拠だ。
本人に言わせれば、みんなが新しい場所で主任になるのを嫌がったから仕方なく…だそうだけど、新しいことに怖気付くことなく取り入れていく姿勢は確かにこの役目に相応しいと言えるだろう。

しかし…こうやって見るとやっぱりチビ…いや、本人が結構気にしてるからやめとこ。
それにしても長いこと話している。北山先生はマンガ好きだからアニメの話も合うのかも？

するとそこへ白衣を着た誰かが近付いていく。
……アレは藤ヶ谷先生？小児科の医師のはずだけど、奥邑さんを知っているかのように手を小さく振っている。奥邑さんも小さく手を挙げ、北山先生は頷いた。
３人は中庭のベンチに座り込み、頭を寄せ合い深刻な顔付きで話し始める…。

知り合いか？
奥邑さんと小児科？？まさかお子さんいるの？
入院手続きの書類では確か配偶者も同居者もいないはず。

しまった。俺のほうがタイムリミットだ。