白い祈り (ページ4)

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血が薄いということはヘモグロビンの濃度が薄いということ。つまりは酸素を運ぶ効率が悪くなるのだ。
心臓肥大の原因はいくつかあるが、血中の水分過多の場合はなんとか薄い血から酸素を取り込もうと心臓が必死に動き、また酸素を取り込む場所を増やしているということになる。
朝撮ったレントゲンでは石馬さんの心臓は通常の３倍以上になっていた。かなり長い間我慢していたのだろう。
まだまだ若く筋力のある心臓だから、急激な運動をしなければなんとかなっていたのかもしれないけれど。

『うわ…そんなに？道理で…お風呂に入った時なんか死ぬかと思うくらい動悸がして目眩もありました。最近はシャワーも辛くて。』

思っていたより酷いというように石馬さんが声を上げた。さもあらん。

『とにもかくにも血圧をまずは下げていきます。一気に血圧を下げると血管に負担が掛かりますのでなるべく徐々に。この注射器に入っているのが降圧剤です。この降圧剤は少しずつ身体に入れていくもので生理食塩水と一緒に点滴で入れていきますが、残量がなくなったら音が鳴るのでナースコールでお知らせ下さい。新しいものと取り替えます。
他にも何か気になることがあればすぐに仰って下さいね。』

『ありがとうございます…あの、入院期間は…？自営なんで仕事が気になるんですけど。』

『まだ詳しい検査をしてみなければ何とも言えませんが…血圧が落ち着かないと。２〜３週間以上は見させて下さい。Wi-Fiも入りますしパソコンなどの機器も使えますので、後でスタッフに訊いて下さいね〜。』

彼の表情が明らかに困惑する。
自分の命の重さと仕事の重さ、こればかりはその人によって比重が違うから、《なんで命を大切にしないんだ》とか一方的に叱ることはできないんだよなぁ。

『お仕事は大切ですし、落ち着いてくれば外出もできるかもしれません。今はあなたのお身体が緊急SOSを出していて、僕たちもなんとか間に合いました。
しっかりお仕事を続けられるよう、身体の声に耳を傾けてメンテナンスをする時間も必要かもしれません。』

石馬さんはそっと胸にコードを付けた手を当てた。

『分かりました。そうですね。』

俺はまた笑顔を作り《頑張りましょう》と言葉を掛けてその場を離れる。
青空が明るさを増してきた。

石馬さん、早く気持ちを整えられるといいな。

治療するにあたって前向きになることは重要なファクターのひとつだもの。特に、心臓は自律神経の制御を受けやすい臓器だし。