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『……から、金返せ言うてる訳やない。あいつの命まどせとも言わん。』
『じゃあ、何故こんな所まで押し掛けて…。』


風が草を鳴らす音に混じり声が流されてくる場所まで辿り着いて、草の陰からそっと2人の姿を探した。
遊歩道の傍らに少し拓けた広場があり、川に面して小さなベンチが置かれている。そのベンチに石馬さんが座り、戸山先生はベンチから1歩離れた場所に立つ。

『………あんたのことはせんど調べたで。あんたも娘さん心臓病で亡くしてんねやな。』

『……。』


戸山先生は何も言わず川面に目を遣る。
小児科の医師だから循環器内科と交流がない訳ではない。だが普段も無表情で眉間に刻まれた皺は深いという印象しかなかった。今のように。
新病院の立ち上げチームに入る前は関東近郊の大きな病院にいたという話だが、石馬さんとどんな繋がりがあるんだろう。


『あの時、あんたの口車に乗った俺らが悪かったんや。分かっとる。そやしこないだうちの女房が死んだ時、俺も死の思たんや。丁度身体の調子も悪なってきててな、息苦しいし身体中痛いし咳は酷いし。ああこりゃ女房と息子が迎えに来とる思た。このまま病院行かずにおったら死ねるてなぁ。
その前に島さんとあんたには会うておかなあかん。』


どうやら石馬さんは戸山先生からの心臓移植無断斡旋話に乗り、お金を支払ったが息子さんは甲斐なく亡くなったということか。
聞き取りの際には家族がいない、心不全を患った親子関係もなしと言っていたけど。


ふと石馬さんのカルテを思い浮かべてみる。
昨日救急で入ってきたので検査は概ね今日行われたはずだった。

実は心不全とひと口に言っても、これは心臓の動きが悪くなり心肥大などを伴ってむくみ・息切れを起こす心臓の病全般に使われる言葉だ。
高血圧や急激な塩分の摂取過多から動脈硬化、心筋梗塞、心筋症など実は原因は多岐に渡る。


石馬さんの場合も、とにかく血圧の高さと全身のむくみ、心肥大という心不全の症状があったので、まずは降圧剤で徐々に血圧を落とし利尿剤を入れて水分制限といった処置から始めた。
この利尿剤はなかなか強力だ。コレで1週間余りで体重が3〜4Kgは落ちる。つまりはそれだけ身体に余計な水分が溜まっている訳だが、昔、ダイエットしたいという理由でこの利尿剤を打った健康な若い看護婦が入院したなんて話をよく耳にするほど。

通常ならこれでかなり心臓への負荷は軽減され、検査結果如何によればまた別の処置に入る…のだが。

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作者名:みあん | 作成日時:2023年2月26日 1時

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