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そう言いながらも、奥邑さんは鹿島先生の腕を後ろ手に捻り上げる。
『あ、コレ使って下さい!』
ネクタイを外して差し出すと勿体ないと首を横に振るので、俺は自分で鹿島先生の手首を結んだ。
『そんな高いものじゃないんです。クリーニング出せばいいんだし…。』
『…ありがと。必ず俺から返します。』
奥邑さんの笑顔に、自分がどんどん落ち着いていくのが分かる。
と、手首を縛られた鹿島先生がフッと息を吐いた。顔がやっと歪んだ。
痛みからの苦悶の表情ではない…自嘲するかのような暗い笑みで。
『…僕は逮捕されるのか?まぁ、それも一興だ。』
一旦落ち着けたせいか、逆に怒りが込み上げた。
その表情にこれまでの苛立ちがまた噴出しそうになる。
『《一興》って…っ。あなたは医師ですよ?たくさんの人の命を預かっているんです。逮捕なんかされちゃったらあなただけじゃなく病院自体が信用失っちゃうんですよ?そんなの患者さんに…患者さんの命に失礼です!』
『命に?…僕は既に命に失礼なことをたくさんしてきたんでね。』
その時、肩に温かいものを感じた。
振り向くと、奥邑さんが俺の肩に手を置いている。
優しい目だ。
『奥邑さん…。』
『周芳野先生はどうしたいですか?周芳野先生は今怪我を負いました。つまり罪として問える範囲ではありますが、後は周芳野先生が被害届を出すかどうかです。』
『出せよ。身体を触られて暴力まで受けたと言えばいい。』
……俺次第?
また頭が冷めた。
彼の罪を訴えるなら理由が足りない。結局彼が俺に何を言ってほしかったのか分からないままは嫌だ。
見た目、冷たい感情しか感じられない彼の中に一体何があるというのか。
けれどもその冷たさの中にこんなことをしてしまうほどの熱が隠されているはずだ。
俺を好きな訳でもない。わざわざ意地悪をして楽しむほど頭の悪い訳でもない。
………ならば何故??
『鹿島先生は逮捕されたいんですね?』
奥邑さんの問い掛けに、俺の中で何かがカチリと合致した。頭の中で今までの彼の言動が走馬灯のように巡り出すのを感じる。
《身体を触ってやったりもしたのか?》
《僕の罪を暴いてくれ》
《こんな診療科では役に立たないけれどね》
《彼女を救ったように僕のことも…》
《彼女自身は最初から…》
《きっと君なら僕を暴いてくれる》
ああ…!《読め》というなら読んでやる。
あんたの祈りを聞いてやる。
この世から鹿島という1人の経験を積んだ医師を無くす前に。
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作者名:みあん | 作成日時:2023年2月26日 1時