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そう叫ぼうとした瞬間。

コココンコン…。

静かなノックの音がドアから部屋に響く。
このリズムはさっきの…。
鹿島先生は壁に手を付いて俺を軟禁したまま目だけをドアへと向けた。
ガチャガチャと2回ほどドアを開けようとする音もして、それから柔らかな低い声が聞こえる。


『周芳野先生、鍵を開けられますか??』


その声を聞いただけで、急に一切の不安がかき消されていく。

『…はいっ!開けます!』

鹿島先生の手をかいくぐり、ドアに飛び付いた。
ドアの向こうには今1番会いたかった人が立っている。

『……奥邑さん!』

『シィっ…失礼しますね。』

そう囁いたかと思うと、白衣のまま彼は有無を言わさず小さく開けたドアの隙間から中へとするりと滑り込んだ。
そして、俺を上から下までじっくり見てこう呟く。

『…無事ですね?良かった〜。』

嬉しそうな明るい口調に思わず膝から崩れ落ちそうになるほどの安心感に襲われた。抱きつきたい衝動を必死に堪えた。


『君は誰だ?』

鹿島先生はさして驚く様子も見せない。冷たい瞳は動じることもなく並んだ俺たちを見ている。

『循環器内科に入院している奥邑と申します。コンビニに行こうとしたら迷いましたので、循環器内科で道を訊ねようと思いまして…ちなみに警視庁に勤務しております。』

1階のコンビニに行くのに何故4階にいるのか…だが、そんな無茶な言葉にも鹿島先生は薄ら笑いしか浮かべない。

『……では僕のほうが失礼するよ。奥邑さん、患者なら消灯時間を守ってもらわないと困りますね。白衣は誰のです?』
『趣味で制服を集めてまして。今日は寒いから上着を着たほうがいいと周芳野先生にアドバイスいただいたので羽織ってきました〜。』
『何の為に入院しているのかは知らないが、まるでネズミだな。では…。』


だけど奥邑さんは、歩き出した鹿島先生の前にそっと立ち塞がる。
体格差で言えば鹿島先生のキリンに対して、奥邑さんはネズミというよりはすらりとしたガゼルだった。


『鹿島先生?いいんですか??もうこんな機会はありませんよ。周芳野先生と話したいんでしょ?』


まるで全てを知っているかのような言葉に、流石の鹿島先生も目を見開いた。

『……何を知っている?』
『何も。あなたが周芳野先生に頼るしかないほど心を病んでいることくらいしか知りません。』


冷たい静かな顔は2人とも似ているが、奥邑さんの言葉の前で鹿島先生の顔には明らかな悲壮感が浮かんだ。

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作者名:みあん | 作成日時:2023年2月26日 1時

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