白い祈り (ページ13)

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『そんな…北山先生たちは準備しながら通常業務もこなしていらしたんでしょ？無理ですって。仕方ない。』

北山先生の食べ終わった弁当の空箱が、テーブル上で乾いた軽い音を立てる。
いつも平気なフリをしてみせる熱い男が一瞬見せた切ない表情に胸を締め付けられた。

《仕方がない》。
自分がその立場でも同じことが言えるのか。
本人には言えないからこそ、他の人間が言うしかない。

『頭じゃ分かってっけど、気持ちがね。もうガックシ来たのよ。でもさ、患者さん受け入れ始めてから分かっちゃったから大事にはしたくないんだよなぁ。
病院ってのは患者の命や人生を抱えて存在してるんだよ。今すぐなんとかしてほしい人たちを病院の都合で振り回したくないじゃんね？？んで、奥邑ちゃんにお願いしてみたんだ。』

すぐそばで奥邑さんが小さく唸る。

『ゔぅ〜！病院にはしばらく近寄りたくないって言ってんのに〜。』

コップにコーヒーを注ぎ入れ、唸りながらも彼は白衣のポケットから手のひらほどの箱を取り出し俺たちに勧めてきた。
キノコを模した国民的チョコレートだ。

『コレ好きなんだよね。北やん要らない？』
『要る。サンキュ。』
『周芳野先生は？俺の採ってきたキノコ食べる？』
『…んふ。何処で採ってきたんですか？』
『１階のコンビニ！これ、しめじかなぁ？』

チョコを口に放り込みつつ、柔らかな笑顔につられ思わず微笑む。
そして馴染みのある味にまた少し安心。

きっとこの人は人の気持ちに敏感な人。

『周芳野先生、可愛い。美味しそうに食べる人っていいなぁ！』
『か、可愛いって…。』

ちょっとどきりとした。
嫌味も臆面もなく男に《可愛い》なんて言ってしまえるのはもはや才能かも。

……だけどなんで病院に近寄りたくないんだろ？
奥邑さん、本当は病院嫌いなの？？
医師としてはちょいとショックだ。
ま、病院好きになるのはおかしいか。でも原因は是非知りたい。

『ふふ。ありがとな。それに奥ちゃんには有給使わせて申し訳ない、マジで助かる。本当に…どうしたらいいか五里霧中だったからさ。特にデリケートなジャンルだし。』

奥邑さんの表情が急に変わった。

『俺自身がムカついたの。急いでいる人は世の中にたくさんいる。だからってホイホイと部品みたいに臓器の交換すりゃいいってもんじゃないじゃん。技術的には可能でも問題はその前後の管理と過程だ。
なのに弱みにつけ込むようなことチラつかせて儲けるのは臓器売買並みに重い罪だよ。』