白い祈り (ページ17)

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『俺ね〜、洋服とかさ、あんまりよく分かんないから店員さんに褒められるとすぐそれ買っちゃうんだけど、眼鏡は特に分かんなくて…誰かに見立ててほしいんだよね。』

『彼女さんとかは？……あ。』

しまった。
フラれたって千賀さんに言われてたの忘れてた。

『ぐっ……いや、そんな気の毒そうな顔しないで。
確かにこないだ人生初の彼女にフラれたとこで落ち込んでました。でも、かなり前向きになってきたんだよ？』

痛いところを突いてしまったせいか、奥邑さんはぎゅっと胸を押さえた。
失恋の傷を抉った申し訳なさで、俺は思わず口を片手で塞ぐ。

『あ、いや、その…奥邑さんて綺麗な顔してるし、コミュニケーション能力あるし、お仕事も出来そうだからてっきりおモテになるのかと。
北山先生の為に有休使ってでもこんな秘密の捜査して下さるなんて漢気にも溢れてるし、お、男でも惚れちゃいますよ！』

焦った。持てる限りの褒め言葉を動員した。
嘘は言ってないし、素直な評価だと思う。

てか、このハイスペックで《人生初の彼女》？
しかもフラれるって…よほど特殊な性癖でもあるのか。

けれど奥邑さんは、俺の言葉を聞いた途端に顔を真っ赤にして、それを隠すように両手で顔を覆った。

『す、周芳野先生？…うわ〜！そんなふうに言われると好きになっちゃうから！！』

大きな手は小さな顔を全て隠してしまうから、照れた表情が見えなくてちょっと残念に思えた。
なんだか中学生くらいの純粋さがあって好感が持てる。

『…もしかして男女どちらでもいい派？』

な、何訊いてんだ、俺？？

『いやいや、今まで男性が恋愛対象になったことはない…って何言ってんだ、俺！！』

だんだん挙動不審になってきたぞ。
北山先生のものだと言う白衣のボタンを片手で弄りながらゆらゆら身体を揺らし始める。
オドオドしている姿が妙に庇護欲を唆った。

……あれ？何だ？？この感じ。

か、可愛い…。

え？いやいやいや、それはマズイ！！

『あ、俺…ちょっと鞄取りに行ってきます。すぐ帰りますから。帰るまでは鍵掛けてもらえますか？合図のノックはコココンコンで。』

ふと浮かんだ感情を払拭する為に俺が立ち上がると、彼は後頭部に手をやりながら赤く染まる頬で頷いた。

小動物…いや、ポメラニアン？
そうだ。この感じは小さなペットを慈しむようなものだ。

そっと部屋から顔を出して辺りを窺ってから、消灯した廊下に踏み出した。
４階の控え室まで急ぎ階段を降りる。