ひとくふう荘14 (ページ37)

今日:4 hit、昨日:3 hit、合計:11,736 hit

16 ページ37

ブルルンと短いしっぽを振ったツチヒメさんは穴の中にお帰りになった。
口々にお礼を述べて、タマさんとミヤタさんはタヌキチとお手手を繋いでお家への道を辿る。

タヌキチさんの歩き方…ちょっとタマさんに似てるかも？ふわふわ…いや、まぁるいしっぽとたまた…まぁ、とにかくおっきいのがぽよんぽよんしてて、足で歩くというより跳ねてます。…痛くないのかしらん？

………ん？ちょっと待って？
僕のこと忘れてますよ、タマさん！！僕もお腹空いたーーーっ！

後を追おうと駆け出した僕は、何かに蹴つまずいてすってんころりん！ボスンっ！？

〜〜〜っ！？？

い、痛くない…けどお身体動かな〜い！！
一所懸命足をもがもがしても進まな〜い！？
何ナニなに〜！？

と、トシコさんが愉快そうにくすくす笑う。

『とうとうお前もハマったね。ツチ媛様の穴に。』

えっ！ホントだ、僕のお身体半分土の中？
道理で動けない訳ですぅ。
優しくトシコさんが僕を抱き上げて穴から出してくれなかったら、僕、今日ココでおねんねになるとこでした。もぉっ！わんことしてあり得な〜い！恥ずかしいっ。

僕は思わず徳利を後ろ足で蹴り飛ばしちゃう。
ハマるわんこに蹴りたいわんこ。
分かってますっ。八つ当たりです。

それからブルブルっとお身体を振るって土を払うと、トシコさんは残った土を払ってくれながら言った。

『たまにはいいさ、穴にハマるのも。取り返しのつく失敗を重ねて大事に備えればいいのさね。
…タマモリの孫も今日は相手が良かったが、これからいくつもの穴を越えていかねばならぬ。
だけどもタマモリのように焦ってしまって己の命を縛られてはいけないからねぇ。穴を見極めて避けて歩けるようになるまで、お前やミヤタ、キタヤマたちでしっかり穴から救い出す準備をしなければなるまいよ。』

そ、そうだね。僕、頑張る！

『…お前だけでは多くを守れぬよ？現に今ハマった穴から抜け出すのに私の手を必要としたようにね。』

そうして、トシコさんは僕を抱き上げてお鼻をナデナデ。

『…ああ、そうか。お前の式神は私だね。』

そんなの畏れ多いけど…何かお返しほしいものある？

『お返し？私と交渉するのかえ？？』

お空はすっかり暗くなり、街の明かりがぼんやり夜空の向こうで明るさを増している。
トシコさんの頭の上に僕はお星様を見つけた。

『お前が私を忘れないこと。それだけで良いのだよ。』

キツネさんの優しい匂いが、ふわりと僕を抱っこした。

fin.