97 私は ページ47
「親父に無理を言って素性を隠していたんだ。あの時、国を変えると言った。それはまだ途中だ。……すまない」
切れ長の目を伏せるグルッペン様。
「まさか!あの時より確実に笑顔が増えていますよ」
そう声をかけるとグルッペン様は形のいい唇に薄く笑みを浮かべた。孤児院でカレーを食べた時の事を思い出す。子供達の笑顔は眩しいくらい明るかった。
「手首を握るまじないも、俺が教えたんだがな」
少し残念そう。
「すみません。……あの時の方が、今のグルッペン様と同一人物だとどこか信じられなかったのかも知れません」
まあでも、と立ち上がったグルッペン様は真っ直ぐ此方を見据えた。
「兎に角、今からは落ち着いてやるんだぞ。お前の努力は無駄じゃない」
ミフターフリーダーの暖かい言葉に力がみなぎってくるようだった。ふと廊下の外が今迄以上に騒がしいことに気付く。疑問に思っていると独りでに扉が開いた。
扉を掴んだままのトントンさんと目が合う。続いて、トントンさんの身体を必死に腕で止めているエーミールさんの姿が目に入った。
「グルさん!アンタこんなとこで何やっとんねん!」
「すみません、グルッペンさん。そろそろ限界です…!」
こっちはとうの昔に限界超えとるわ、とエーミールさんに言うトントンさん。その様子を見てグルッペン様はゲラゲラと笑っていた。
「じゃあな、A。……優美に、逞しくあれ」
「ありがとうございます」
一頻り笑ったグルッペン様が差し出した拳に自らのを合わせる。微笑んだグルッペン様の表情はとても優しいものであった。
扉から出ようとした時ふとグルッペン様が振り返った。
「そうそう、これが終わったらまた昔のように呼んでくれ」
昔のように、か。
昔は何と呼んでいただろうか。
再び静かになった部屋で一人考える。頭に浮かぶのは、やはりあの彼の事であった。ここ暫くの間、幾度と言葉も交わさなかった。私の中で何処か意固地になっている部分もあったかも知れない。話しかけようとしている雰囲気を察していたのに、私が逃げた。
狡いとは思う。けど今の私にはこれしかできそうにない。作曲者がこの曲に込めたメッセージを、私なりに解釈して舞で表現する。愛しい人に向けて奏でられるこの旋律の力を借りたい。
そしてこの舞が終わったら、もう一度貴方に言葉で想いを伝えたい。
「優美に、逞しくあれ」
静かに息を吐き、頰をぱちんと叩く。
いよいよ、パーティーが始まる。
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あん(プロフ) - RUIさん» RUIさんはじめまして、素敵なコメントをありがとうございます。そのように仰って頂けて大変光栄です…!再び読んでくださったなんて本当に嬉しいお言葉です。ありがとうございます。引き続きパート3も楽しんでいただけたらと思います…! (2019年8月21日 20時) (レス) id: 2a14f29560 (このIDを非表示/違反報告)
RUI(プロフ) - 修正前から拝見しておりました。この作品は私が出会った中で1番印象的で大好きな作品です。少しの間占ツクを離れていて最後に読んだのは半年ほど前でしたがほとんどの内容を知っかりと覚えていました。続きが公開されるのを今か今かと待っています笑大好きです! (2019年8月19日 0時) (レス) id: 58d14c974b (このIDを非表示/違反報告)
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