プロローグ ページ1
それは人生で最も壮絶な一日であり、不幸な一日だった。
悲鳴はとうに喉を焦がす吐息と変わり、ただ息を切らして必死に走った。何故足を止めず走り続けているのか、正当な理由は思い浮かばない。否、考える猶予すら与えられなかった。
今は、明確な殺意を宿した声色から逃げるのに精一杯だ。肌を焦がす太陽から影を隠すように、暗い路地裏に飛び込む。いっそこのまま暗闇に溶けてしまえたら、どんなに幸せなことだろう。生温い何かが頬を伝っているのが分かる。しかし、震える手は拭うのを拒んだ。嗅覚のみが正常に機能しているのか、それは確かに鉄臭かった。
叫び声が、騒めきが、段々と近付いてくる。
錆びた換気口のパイプに躓き、視界がぐるりと反転する。
焼けるように喉が痛い。
不快な味を、恐怖と共に必死に飲み込んだ。
一瞬の静寂と、微かな希望。
それを打ち砕いたのは、嗄れた耳障りな声だった。
「見つけたぞ」
愉悦、悦楽。たった五文字に、そんな言葉が頭を過ぎった。きらりと光った銃口が此方を向いて嘲笑う。
何の面白味もない人生だった。
代わり映えのしない日々だった。
それなのに私は何故生きたいとこんなにもがいているのだろう。もう考える必要など微塵もない。
かちゃり。ストッパーが外れる金属音だろうか。自分から目を瞑ったのだから、この予測に意味はない。分かっているのは今日ここで人生が潰えるということだ。最後ぐらい綺麗な死に顔でいたいと望むくらい、掃き溜めにいた私には許されるだろう。
別れを告げる相手すら思い浮かばない、身寄りのない私に残るのは、きっと血生臭い肉塊と虚無だけだ。
さようなら。
誰でもなく、自分に。
刹那、発砲音には似つかわしくない鈍い打撃音が路地裏に木霊した。一瞬の内に、ぐしゃりと何かがひしゃげるような不快な音が届いた。
「──生きてる？」
そこからの記憶は酷く曖昧だ。
唯一覚えているのは、路地裏から覗いた空が鮮やかな水色だったことと、私を引っ張り出してくれた人を燦然と輝く黄色い太陽が照らし、深い影を落としていたこと。
そしてその胸元には、きらりと光る銀色のタグが揺らめいていたということだ。
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あん(プロフ) - Alexさん» コメントありがとうございます。引き続き楽しんでいただけたらと思います。 (2020年6月29日 9時) (
レス) id: 8ef2d7e6a5 (このIDを非表示/違反報告)
Alex(プロフ) - とても面白かったです！！更新引き続きお待ちしております！ (2020年6月28日 17時) (レス) id: 68d9b196e6 (このIDを非表示/違反報告)
あん(プロフ) - かわっちかわっちさん» コメントありがとうございます。今後も引き続きお楽しみいただけたら嬉しいです。 (2020年6月26日 6時) (レス) id: 8ef2d7e6a5 (このIDを非表示/違反報告)
かわっちかわっち(プロフ) - 初コメ失礼します！お気に入りさせていただきました。投稿無理せず頑張って下さい！ (2020年6月24日 20時) (レス) id: d677453767 (このIDを非表示/違反報告)
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