例え食事がキスでも、流石に生徒は手を出しませんが？

今宵、私は攻略対象に出逢う。 ページ8

歳を重ねるごとに爽やかさと色気を兼ね備えていくダリくんは、来年から新米の教師として教鞭を執るようだ。私自身も入学式やデビュタントを控えており毎年恒例の貴族会に今年初めて参加する事になった、エスコート兼護衛を務めるダリくんからハンカチを受け取ったのが一ヶ月前。

そして当日、馬車に揺られた私は淑女となる為に所作の勉強を怠る事はなかったが…やはり緊張はするもの。隣に腰掛けていたダリくんが「今日のAも一段と可愛いよ、胸を張って？」と手を添えて優しく告げる。頑張る…大丈夫。と五月蝿く高鳴る心臓を押さえて深呼吸する。

ダリはそんな彼女を眺めて考える、今宵沢山の女の子達がデビュタントに参加する。しかし大人達のお目当てはAだろうと…名家出身、淑やかであるも愛らしい見た目、美し過ぎて他悪魔から嫉妬された為に呪われた家系。そんなの興味本位で一目見たくなる者は多いだろう…彼女の両親もまた造形物のような美男美女のおしどり夫婦と名高いが、Aは物語で語り継がれた先祖返りの女悪魔と瓜二つなのだと噂が立つ程だ。

貴族社会に染まらぬ儚くも美しい彼女を物にしたいと考える男は多いだろう。何よりA程の相手とキスが出来き魔力供給をして生きていけると聞けば、男にすれば是非ともあやかりたいと願わずにはいられない。変な悪魔(虫)が寄り付かないようにしないとなぁ…そうダリは小さくため息を吐いた。彼女が気に入った相手は僕自身も手を出さないが…嫌がる相手には容赦なく叩きのめすつもりだ。

「社交界に素敵な相手が見付かると良いね？」
「今日、何だか攻略対象の男に出会いそうな予感がする…私は悪役令嬢だから、しっかり気を引き締めないと…ザマァだけは絶対避けなきゃ…イジメ、駄目、絶対…」

度々小さく独り言に話す【悪役令嬢】【攻略対象】【ザマァ】に耳を澄ませたダリはまた恋愛小説の話かな？と小さく笑う。一度その事に触れて見れば、あからさまに狼狽えたAが「恋愛小説にハマっていて！私って、立場的に悪役令嬢見たいじゃない！？」と言われ、そもそも悪役令嬢とは何だ？と、ダリは普段読みはしない恋愛小説に手を伸ばし読んだりもした。高飛車で身分の低い者を蔑み、自身の手を汚す事もなくイジメたりする高貴な身分の令嬢の事を指す見たいだが…

「君は悪役令嬢と言うより、ヒロインだろうね…」

皆が憧れ悪魔(ひと)に愛される令嬢はそういない。ダリの呟いた言葉は闇の中に消えていった。

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