【WT】ゾンビになるまでに、尾も白いことやり尽くす (ページ10)

今日:16 hit、昨日:1 hit、合計:525 hit

ゾンビになるまでにやりたい事リストページ10

中村(Nakamu) side

金髪の彼の事が気にかかったまま、俺はコンビニの外に出た。

「結局、あの人誰だ……？」

あのチャームはどこで買ったのだろう。そして、彼はコンビニに何をしに来ていたのだろう。気になる事が多過ぎて、頭がパンクしてしまいそうだ。
そんな事を考えているうちに、いつの間にか自宅のマンションに帰ってきたようだ。

「あ、もう着いちゃった」

モヤモヤした気持ちのまま、行きと同じように配水管を登っていく。重力に逆らって登る事と、何倍も重くなったリュックも相まって、腕がもう限界だ。

「ふっ、ふっ……」

歯を食いしばりながらなんとか登り、ふと行く途中に頼まれた懐中電灯とラジオの事を思い出した。
折角頼まれたのに忘れていたなんて最低だ。俺は自室に戻る前に、やけに静かなあの夫婦の部屋に寄ることにした。

「こんにちはー。頼まれていた物、持ってきました、よ……？」

ベランダには居ないことを確認して、夫婦の部屋を覗いてみる。
そこはもぬけの殻で、部屋はやけに真っ赤に染まっている。ドアはまるで外側から蹴破られたかのように歪んでいるし、室内は強盗にでも入られたのかと見間違うほど荒れていた。
そんな悲惨な光景を見ても、俺はどこか冷静なまま呆然としていた。

「そっか、ソンビが迫ってるって奥さん言ってたもんな。間に合わなかったかぁ……」

人が殺された現場を見ていると言うのに、俺の口から出たのは、「間に合わなかった」というどこか他人行儀な言葉だった。そこで、俺も初めて自分の命の儚さを再確認した。

「やりたい事、まだいっぱいあるのになぁ……」

ふと、俺がやりたいことを脳内で羅列してみる。
漫画をもっと読みたいし、スカイダイビングもしてみたい。親友たちと飲み会だってしたいし、ヒーローにだってなってみたい。もっともっと、沢山のことをやりたい。
……なら、今からでも足掻こうじゃないか。
世界がゾンビ化したとは言え、まだまだ生きている人は居る。世界はまだ、生きている。

「……よしっ」

俺はそう呟いて、しっかりとした足取りで部屋に戻る。