解放 ページ15
Nakamu side
「やぁっと、会社から解放されるなぁって。なんか、嬉しくなっちゃった」
「……え、？」
俺は金田のその一言で、完全に頭が真っ白になった。
会社から開放される？一体、何を言っているのだろうか。
「俺さ、毎日毎日上司に怒鳴られて……取引先に謝ってばっかで。嫌になってたんだよね」
彼は自嘲気味に笑いながらそう言うが、俺は彼の言っている事が微塵も理解出来ない。
『嫌』だと言うのなら何故会社に来るのだ。あんなにも憔悴しきっていた癖に、どうして休みを取らないのだ。
昔の金田なら、無条件に優しくは無かったじゃないか。優しさの中にも、自分の意志をしっかり持っていたのに。
言いたいことは山ほどあるのに、俺は何も言えない。ただ口から空気が漏れるだけだ。
「でも、俺が辞めたら先輩とか同期に迷惑がかかるじゃん？『逃げるのか』って言われんのが嫌でさぁ。……だから、今すげぇ嬉しいんだよね」
金田は壊れた人形のような笑顔で笑う。その姿があまりにも哀れで、ただ救いを待つだけの木偶の坊に見えた。
「…………ふざけんなよッ！！」
「…いッた……？！」
湧き上がってくる怒りを抑えきれず、俺は思わず金田の顔面をぶん殴った。怒りに身を任せて人を殴るなんて、生まれて初めてかもしれない。
彼は予想外の事態に頭が追いついていないのか、殴られた後も呆然としたままだ。
「助けて欲しいなら助けを求めろよ！！なにが『嬉しい』だよ、勝手に会社に留まってんじゃねぇよ！！嫌なら辞めろよッ！！俺が知ってる金田は、そんな事で立ち止まってる奴じゃないだろッ？！」
俺は荒い息を整えながら、畳み掛けるように金田を怒鳴りつける。彼は目を丸くして、何が起きたか分かっていないような表情をしていた。
「……で、でもさ……俺が辞めたら、皆が困るって」
「そんなの知らねぇよ！！人の顔色窺う暇があるなら行動起こせよッ！人の意見に振り回されてんじゃねぇ！！」
「…………そっ、か……そうだよな。その通りだわ」
俺が言葉を言い切ると、金田の瞳に光が戻った。サファイアのように輝く瞳は、正に宝石と呼ぶに相応しい輝きを放っている。
金田は覚悟を決めたように息をつき、床に放置されていた会社の鞄を引っ張り出した。そこに揺れるチャームを見て、俺は思わず声を上げてしまった。
「お前、それ……！」
「あ、気付いた？そうだよ。あの時のチャーム。今でも、ちゃんと付けてんだよね」
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作者名：あんこ | 作成日時：2023年12月28日 21時
