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まるで日常のように金田は俺をオフィスの中に入れてくる。
オフィスまでの道のりが小綺麗なのも相まって、まるで今までのことが悪い夢だったのではないかと錯覚しそうになる。
「それで？話って？」
彼は俺にそう聞いてくるが、その声は本当に興味が無さそうな顔をしている。
俺が『ゾンビパンデミックが起きた』と言っても、きっと信じてもらえないだろう。そもそも急にそんな事を言われても信じる訳がないのだが。
パニックになられても困るので、言葉を選びながら話を続ける。
「えっ、と……今って昼前じゃん？か、会社の人って結構早めに出社する…でしょ？なのに、その…誰とも会わないなぁ……って思って……」
「あぁ、確かに。全然気づかなかったわ」
「は？」
俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。金田の反応が、予想と大きくかけ離れていたから。
「ずうっと家に帰れてなかったせいで、感覚がバグってるのかも。今日って平日？あれ、日曜日だっけ？日曜日はこのビルも閉まるし、会社に来る人なんていないよね」
彼はさも当然のようにそう言う。
自分の感覚が麻痺している事にも、世界が豹変したことにすら、気が付けていないようだった。
「……あの、さ。異変に…気が付いてないの？」
「は？異変…？」
俺は、震える声でそう聞く。正直言って怖いのだ。だって、外があんな状況になっているのに、彼は何も気が付いていないから。
金田は不思議そうな顔をしながらも、窓の方へ足を進めた。そして、外の光景を見てやっと異変に気が付いたようだった。
「……あー。まあ、確かに。ゾンビだらけだね」
少しの間黙って外を見つめていた金田は、突然くつくつと笑いだした。
俺はその表情がどうしようもなく怖くて、思わず後退りをする。
「な、なに……」
「いや。ただ、おかしくって」
彼はそう言って肩を震わせる。何が可笑しいのかが俺には分からない。金田は一体何に笑っているのだろうか。
俺が呆然としていると、金田はゆっくりと口を開いた。
その顔は何故か晴れやかで、心底嬉しそうだった。
目の下のクマは残ったままだが、その瞳には、高校時代の面影が少しだけ戻っている。
「やぁっと、会社から解放されるなぁって。なんか、嬉しくなっちゃった」
「……え、？」
俺は金田のその一言で、完全に頭が真っ白になった。
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作者名：あんこ | 作成日時：2023年12月28日 21時
