再会 ページ12
金田(きんとき) side
社会のことを、ずっと知った気でいた。勉強して、いい大学に行って、そうすればそれなりの幸せは保証されると本気で思い込んでいた。でも、いざ社会に出てみて。知ってはいたものの、実際に目の当たりにして見ると自分の理想とは全然違う世界だった。
「おい金田ぁ！こんなクソみてぇな企画が通るとでも思ってんのか？！」
「っえ、で、でも、上司が、企画書の提出期限は今日だって……」
「あ"ぁ？なんだその目は。俺が悪いってのか？！文句があんなら言ってみろよ！」
「す、すみませ……失礼します……」
毎日のように上司には怒鳴られ、『つまらない人間』だと罵られ。やっとの思いで完成させた企画の成果は上司が横取りしていく。
会社にはパワハラ上司しか居なくて、毎日のように飛び降りや首吊りを考える日々。
それでも、自分が仕事に穴を開ければ、先輩や同期に迷惑が掛かる。そんな責任がのしかかって、退路はとっくの間に閉ざされてしまった。
定時では絶対に終わらない量の仕事を押し付けられ、いつの間にか家に帰ることすらままならなくなった。ビルが施錠される日曜日だけは家に帰ることが出来るけれど、それだって終わらなかった仕事は持ち帰らないといけない。
食料と飲み物は会社の自販機で済ませて、誰も居なくなったオフィスで自分の机の下で体を縮めて眠る。そんな生活を続けていた。
「……家、帰りてぇなぁ」
ぼそっと呟けば、冷えきったオフィスに自分の声が虚しく響く。疲れきった体では目を開けていることすら難しく、俺の意識は闇に溶けていった。
「……ん、朝…？」
スマホのアラームを掛けずに寝てしまったのか、スマホの画面は真っ暗なままだった。まだ誰も居ない事から察するに、どうやらまだ始業時間にはなっていないようだ。
「……あー、やば。企画書終わってない」
しかし、今日は大事な企画のプレゼンが予定されているはずだ。上司にバレてはまた罵られるだろう。ただでさえギリギリのスケジュールだと言うのに。
あとどれぐらいの猶予があるのだろうかと時計を見ると、そこには9時30分の表記が。始業時間はとっくに過ぎているはずなのに、オフィスには誰の気配も感じられなかった。
「……時計、バグってんのか……」
それか、自分の頭が狂ったか。寝起きでろくに働かない頭では、そんな事しか考えられない。
とりあえず俺は、またパソコンの画面に向き合った。
外が異常なまでに静かな事には気が付かないまま。
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作者名：あんこ | 作成日時：2023年12月28日 21時
