ただ好きなだけ【土方十四郎】

どうして ページ8

「土方さん」



土「…」








グイグイ引っ張っていくのかと思いきや、思いの外、ゆったりとしたペースで進んで行くから歩きやすい



でも何度 土方さんの名前を呼んでも応答はなかった



だから、土方さんの手の大きさや指の形までもが熱となり手首から伝わる



普段から刀を握っているからか、手の平は硬い





…これが男の人の、土方さんの手





心臓が大きく跳ねるのはこの状況に併せて、周囲の視線をビシバシと感じるから





あんなかっこいい人があんな醜い人を連れてる



あの女、男の方に恥をかかせてるのに気付いてないのか



分かるわけないでしょ、頭がおかしいのだから





ドッドッと徐々に速くなる心音とサッと血の気が引く頭



聞こえたくもない声が言葉が鮮明に聞こえてくる









「はぁ…ｯ、はｯ…」









呼吸が乱れ、ピタリと足が止まり膝から崩れ落ちる



怖い



怖い怖い



お前はいなくていい、そう皆に存在を否定される



誰も分からないこの現実にひとりぼっち



安定してきたのにまた崩れ落ちていく私はやっぱり駄目な奴



土方さんにも迷惑をかけてるし、余計に注目を集めて身体が痛い



早くこの場からいなくならなきゃ



ガタガタと震えながら立ち上がり、未だに繋がる土方さんの手をない力で振り払う









土「臭ぇっつったら叩っ切るからな」









その言葉が聞こえた瞬間、バサっと何かを頭から被せられ、視界が真っ黒になり身体が宙に浮く



状況が把握できず、混乱する中で唯一 感じたのは硬い土方さんの広い背中



そして眠っている赤子をおんぶしているかの様に再びゆったりと歩き出す



土方さんの背中で生きてるのが嫌で呼吸を乱しながらボロボロと涙を零してしまう



土方さんの隊服を濡らしてしまっているのにも関わらず、この人は何も言わずにただ歩くだけ



そのゆったりとした一定の歩みは私の乱れた呼吸を整えるのに丁度良く、徐々に落ち着いていった










山「副長お帰りなさい！…て、その後ろのは誰ですか？」



土「近くで拾った」



山「拾ったって…捨て猫じゃあり…」



土「5秒以内に何か温かい飲み物を俺の部屋に持ってこい

　 出来なかったら切腹」



山「無茶な！

　 だからその人 誰…」



土「こいつを詮索する様な真似してみろ

　 二度とこの世を歩けなくしてやる」



山「は、はい！失礼しました！今すぐ温かい飲み物ご用意させて頂きます！」

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