五十五輪の花 ページ13
□
「ーー師範!!!」
ーー重い扉を両手で開け、中に入る。
そこには、天井に貼り付いた体勢のまま笑う不気味な鬼と、師範を抱きかかえたまま涙を堪え、耳を赤くして震えるA。それを見れば……どんな状況にいるのか、自ずと分かってしまった。
それでも聞かずにはいられなかった。ほぼ確認するような目的だったけど、Aに聞く。
「……A、師範は、師範は」
『……』
私の言葉を最後まで聞かずに、Aはふるふると首を振った。
Aが今持っている刀は二つ。ひとつは彼女の日輪刀。そしてもうひとつは、……師範が天井から落ちるときに滑り落ちたであろう、師範の日輪刀だ。
「ーーうああああ!!」
私の、喉が焼かれるかのような悲痛な叫び声が、部屋全体にわんわんと響く。
そしてカナエ姉さんと同じ呼吸ーー花の呼吸を使い、上弦の弐が貼りつく天井へと大きく跳躍し、技を放った。
「花の呼吸、肆ノ型ーー紅花衣」
そして、私が技を出した瞬間。
標的である鬼は大きな音も立てず、橋へと着地。……憎たらしい面を、している。
「いやー危ない危ない。……それにしても今日は良い夜だなぁ。次から次に上等なご馳走がやってくる」
……好きな人や大切な人は漠然と、明日も明後日も生きてる気がする。それはただの願望でしかなくて、「絶対だよ」と約束されたものではないのに。
人はどうしてかそう、思い込んでしまうんだ。
□
しのぶ姉さんは、
じゃあなんでカナヲの問いに首を振ったか、というと。
……怒りの力を使わなければ、万に一つの勝ち目もないと思ったから。
人にはリミッターってものがある。簡単に言うと、力を抑制する機能のようなものだ。抑制していないと、いつか体が、こころが、壊れてしまうから。
怒りの力は、
まずい、と思ってたんだ。
姉さんは絶対死なせたくなかった。誰だって、ひとりぼっちは嫌だから。それが一回家族を失った人なら、尚更。
私は二回も家族を失ってる。……また失うのなんて、絶対。本当に、嫌なんだ。
でも姉さんは、自分が死ぬことでこの鬼を弱らせて、そこでカナヲが頸を斬る、……という作戦を立てた。つまり、この作戦では姉さんが死ぬことが絶対条件。
逆に言えば、姉さんが食われていない今ーー状況はかなり絶望的だ。
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れい(プロフ) - めちゃめちゃに笑ったしめちゃめちゃに面白かった…です…永遠に見てたい (2020年9月12日 3時) (レス) id: e48ff50660 (このIDを非表示/違反報告)
ゆいな(プロフ) - こんなかわいい姉妹がいたら絶対シスコンになってしまう笑おもしろかったです!!!!!!! (2020年9月11日 18時) (レス) id: ec54d11116 (このIDを非表示/違反報告)
みず(プロフ) - 猫丸。さん» 更新がん…がんばる…………… (2020年4月8日 12時) (レス) id: 40c42479fe (このIDを非表示/違反報告)
猫丸。 - 安定の面白さやな、その才能わけろ(?)シリアスとギャグの切り替え上手すぎですか、おいらを弟子にしてくだせえ!!!おーん、更新楽しみにしてるよーん、応援してるよーーん (2020年4月6日 13時) (レス) id: 144e3b7d1c (このIDを非表示/違反報告)
みず(プロフ) - 桜さん» 誤字率に定評がある女がまたやらかしたみたいですねすみません!!!!!しのぶさんは救われましたイエーイ!!!!!!コメントありがとうございます、更新は……気長にお待ちください!!!!! (2020年3月17日 21時) (レス) id: 40c42479fe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みず | 作者ホームページ:https://twpf.jp/oni_kome
作成日時:2020年3月4日 19時