▽いつもと違う ページ38
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『私は大丈夫ですわ、それより……』
「?」
『ナイフ、ごめんなさい。新しい物を買わせてくださいませ』
可愛い柄のナイフの先端には私から溢れたのであろう赤色がついていた。拭けば落ちるかもしれないが、気分的にこれを使うのは嫌だろう。
「いえ、そんな…!」
「A令嬢、それなら私が」
『いいえ、私が汚してしまったんですもの』
小物屋の主人を呼んで似た物を購入する。その間にも血は流れてたみたいで、服の袖口には赤茶色のシミが出来ていた。
『本当にごめんなさいね。ワザとじゃなかったの』
困り顔の令嬢に強引にペーパーナイフを手渡す。
閉じぬ傷が熱を持って痛み、私は足早に部屋へと戻っていった。
あの後なんとか止血してクルクルと包帯を巻いたが、処置として正解なのかイマイチ自信がない。
櫻鏡園には常駐の医師はいない、けれどこの程度の怪我で医者を呼ぶなんて面倒だ。
『さてと仕事仕事……あれ?』
いつも机の上に置いておく懐中時計が見当たらない。
可笑しい、確かに昨日までは机の上にあったのに。
「今日は話題の趣旨を変えよう」
『変える?』
結局、時計も見つからず時計を持たぬまま園を出てきた。アレは唯一ヴェネマーレアから持ち込んだ物で、失くしたとなると割と凹む。
「よくよく考えてみれば、俺はお前の事を何も知らないと思ってな」
『はあ……』
それはお互い様だと思うのだけど。
置いてけぼり気味な私に総統は質問を繰り返す。
「普段は何をしてるんだ?」
『読書か散歩を』
「他には?」
『特には何も…』
「他の令嬢達とは仲が良いのか?」
『程々です……』
質問に答える程自分の中身が無い気がして辛い。
グルッペン様は何かを考えている様子だったが、私の生活などたかが知れてるので諦めてほしい。
「何困らせとるん」
「ロボロ!来たのか。別に困らせてないゾ」
『ご機嫌よう、ロボロ様』
普段から例え休憩時間でも、仕事の為に誰かが来る事が少なくない。部屋にいらしたロボロ様は何かを手に持っているようだった。
「姫さんにな?渡すもんがあって…」
『私にですか?』
「お、おう」
「待て、何処に照れたんだ」
ちょっと恥ずかしげな彼は、総統のツッコミも無視してある物を手渡してくれた。
『万年筆…』
「姫さんも手紙とか書くやろ?それ使うてくれ」
渡されたのは我々国の国章が刻まれた万年筆。
どうして急にこんな贈り物を頂いたのかはわからないが、私は笑ってお礼を言った。
ラッキーゲーム
hoi
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山西 陽朔 - 考えさせられる小説ですね!次回作は南無妙法蓮華経と唱えることで万人が成仏するということを作品にするのはいかがでしょうか? (4月30日 18時) (レス) id: aaea05e353 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - ユッケさん» コメントありがとうございます。好きだと言って頂ける事が何より励みになります。続編でも気長にお付き合いくださいませ! (2019年8月24日 17時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 未人さん» ありがとうございます!続編も気長にお付き合いくださいませ。 (2019年8月24日 16時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 黒コマ先生さん» コメントありがとうございます!続編もぼちぼち張り切って参りますので宜しくお願い致します! (2019年8月24日 16時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 紅葉さん» コメントありがとうございます!初期からのご愛読恐悦です。続編でもよろしくお願いいたします! (2019年8月24日 16時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あん肝ポン酢丸 | 作成日時:2019年8月4日 8時