▽解けぬ手は ページ13
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一頻り笑った総統閣下は、疲弊しきった表情のマフラーさんに促され私を櫻鏡園に戻すよう指示した。
命令を受けたオスマン様が、ごく自然に私の手を取りエスコートしてくれる。
心臓に悪い発言をしたせいで未だに鳴り止まぬ鼓動音が、手を通して伝わってしまうことだけが私は心配だった。
「エミさんと中庭行ったんやろ？今日もちょい寄ってこや」
『身に余る光栄ですわ』
一度訪れた華やかな庭は、前と変わらぬ美しさのまま私を迎え入れてくれた。
さて、この手はいつ離せば良いのだろうか。伺うように隣の彼に目を向けると、にこりと微笑まれた。
違う、そうじゃない。
「しかし見違えたなぁ、A嬢」
『そ、そうでしょうか……？』
鋭い指摘に肝が冷える。この方は我々国へ来る時に引き渡しをしていた人だということを思い出した。
オスマン様は相変わらず柔和に微笑んでいるが、こちらとしては気が気でない。
冷や汗をかく勢いなので、やっぱりこの手を離してほしい。
「もっとよう分からん娘やと思ってたわ」
『そのご意見はごもっともですわ。此処に来たばかりの時は本当に何も知らぬ愚者でしたもの』
「何か、心変わりするような事でもあったん？」
『そんな特別なものではございません』
前世の事など言える筈もないので、適度にボカしつつ嘘とは言えない回答をした。
心理学に長けているのかオスマン様は探るように私を見据えたが、やがてふにゃりと表情を崩した。
『ただ我々国へ来て1年、私も17歳になりました故新しく読書の幅を広げようかと思ったのです』
「……ま、今はその答えでええわ。今の方がずっと素敵な瞳しとるから」
ゆっくりと、繋いでない方の手で私の髪を梳く彼には慈しみすら感じられる。それ以降は特に確信を突いた事を聞かれたりはしなかった。
ゆるりと中庭を一周して優しい檻への帰路につく。
繋がれた手を眺めつつ歩いていると、不意に悪寒の様な寒気が脊髄を伝った。
バッと後ろを振り返る、背後には出たばかりの城がそびえ立つばかりで人影はない。
突然身を捩った私に、オスマン様はちょっと驚いた様子で「どうしたん？」と尋ねた。
『いえ、なんだか後ろに何か居た気がして…』
「特に何もおらんけどなあ」
『そのようですね。きっと虫でも通ったのでしょう』
後先考えずにアクションを起こしたことを後悔してると、隣の彼は急に吹き出した。解せぬ。
結局私は、最後まで手を解くタイミングを逃してしまっていたのだった。
ラッキーゲーム
hoi
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山西 陽朔 - 考えさせられる小説ですね!次回作は南無妙法蓮華経と唱えることで万人が成仏するということを作品にするのはいかがでしょうか? (2023年4月30日 18時) (
レス) id: aaea05e353 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - ユッケさん» コメントありがとうございます。好きだと言って頂ける事が何より励みになります。続編でも気長にお付き合いくださいませ！ (2019年8月24日 17時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 未人さん» ありがとうございます！続編も気長にお付き合いくださいませ。 (2019年8月24日 16時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 黒コマ先生さん» コメントありがとうございます！続編もぼちぼち張り切って参りますので宜しくお願い致します！ (2019年8月24日 16時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 紅葉さん» コメントありがとうございます！初期からのご愛読恐悦です。続編でもよろしくお願いいたします！ (2019年8月24日 16時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：あん肝ポン酢丸 | 作成日時：2019年8月4日 8時
