居場所をなくした歌い手 ページ3
「なんでですか?私、まだ歌えます!」
高い声が響き、通行人が数人足を止める
「そんなこと言われても君は金持ちの子でもないし、君を雇ったのは西園寺さんのとこの娘さんが風邪をひいたからなんだよ」
「つまり私は、今日限りの日雇いだったのですか?」
「あ、リッカさま風邪は大丈夫ですか」
私の雇い主は私のことなど知らない素振りで美しいドレスをまとった少女にごまをすり始める
「あなた、歌い手?」
少女は心配するような顔つきで私に話しかけた
「はい、見習い歌い手のビジュといいます」
「そう、ビジュちゃん…私は知ってるかしら?」
「美しい声と容姿をもつリッカ…さま」
「リッカでいいわ」
金色に輝くドレスがふわりとゆれる
それに対して私は赤のシンプルなドレスに
親の形見である髪飾りのみ
靴すらはいていない
「ねえ、あなた私と歌わない?」
彼女との差に劣等を感じていた私は弾かれたように顔を上げた
「私が、リッカさまと?」
「だからリッカでいいって、同い年でしょう?」
♪.♪、♪〜
リッカが小さな声で歌い始めた
私はそれを下から支えつつ、音を絡ませていく
やがて小さな歌声は重なり、絡み合い
音という重みを孕んだ
「すごい、ビジュの声はあたたかな日を浴びた気分になれるわ」
リッカに認められた、誉めてもらえた
ただ私は、その嬉しさのせいで現実を忘れていたようだ
男性の手が私の胸を強く押した
「あっちへ行け!貧乏人」
「お前みたいなのがリッカさまに近づくなんて恐れ多いぞ!」
「消えろ!ここから今すぐ立ち去れ!」
耳の奥で低い音と高い音とが汚く混じりあった
キモチワルイ、キモちワるイ
気づいたら私は町を、バビロンの町を飛び出していた
あふれでる涙も、切れて血の出た足も
何も感じることが出来なかった
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