7th ページ7
「今日のことは、レギュラスにも母上にも父上にもクリーチャーにも内緒だぞ」
門の前で、兄は言いました。女の子は頷き、背負われた兄の背中に顔を埋めます。
兄はやはりくつくつと笑って、そして呟きました。
「いつか、必ずこの家から連れ出すから」
聞き返す前に悲痛じみた泣き声が女の子の耳に届きました。
そちらを見れば、いつもはしっかりと整えている髪をボサボサにし、泣きながらこちらを睨む母がいました。女の子はびっくりして、そんな母を凝視します。
「シリウス！！！」
母は兄の名を叫びました。兄は面倒臭そうにため息をこぼして、女の子を床に降ろします。
女の子が下に降りると、母が勢いよく近寄って彼女に囁きました。
「A。ああ、A。シリウスに変なことはされなかった？」
母は女の子に抱きついて、涙を流しました。女の子は訳がわからず、兄を見つめます。兄は女の子とは目を合わせず、ただ、宙を見ていました。
「シリウス。お願いよシリウス。もう2度と、Aを外に連れ出したりしないで……っ！」
「なんなんだよ！Aはもう5歳なんだぞ？今まで一度だって外へ出さないで……どういうつもりなんだよ！」
「こうするしかないないの！この子にとって、それが一番安全なの！だってこの子は……っ」
「ヴァル」
叫び出そうとした母を、今まで傍観していた父か止めました。母は今まで以上に青ざめて、わんわんと泣きました。下の兄が出てきて、母を慰めます。
「シリウス。このことについては私が話そう。一度部屋においで」
「誰が行くかよ！ふざけんな！」
兄は怒鳴り乱暴に部屋に戻って行きました。母は下の弟に連れられ、自室へと戻ります。残った父が女の子に言いました。
「A。母様は今は不安定なんだ。もう2度とこんな真似はしないでおくれ」
厳しく、悲しげに父は言いました。父のこんな表情。父のこんな声音。女の子は初めてのことでした。
女の子は自分がしてはならないことをしたことに気づきます。瞳から涙がこぼれました。
父は女の子の頭を撫でながら、これまでにないほど美しく笑いました。
「だから、」
父は続け、懐から何か長い、木のような、とにかく棒状のものを取り出します。
「今日のことは全て忘れてしまいなさい」
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作者名：あんころころもち | 作者ホームページ：
作成日時：2020年4月22日 14時
