48th【4年前】 ページ48
さて、場所は変わってここはアズカバン付近の小さな森。大きな黒犬は逃げていました。なにからかと問われれば、この世の全てからと答えるでしょう。
とにかく、黒犬は逃げる理由があったのです。逃げて、逃げて、そして逃げる。黒犬の心に宿っているのは、愚かな愚かな復讐心。掲げて生きても辛いだけの、そんなもの。
黒犬は森の中で、小さくうずくまります。どれだけ走ったのかわからないけれど、明日のためにも休憩をしなくてはならないから。
黒犬は空を見上げました。しかし視界に入るのは、生い茂った木々だけ。犬が見たかったものを、そのまま丸っと隠してしまいます。ああ、なんと、虚しいことか。
犬は考えました。思い浮かべるのは懐かしい親友の顔。学生時代の楽しい記憶。この十何年間、思い出すことのなかった記憶。
犬はふと、自分の育った家を思い浮かべました。忌々しい思い出しかない悲しい家。彼はいい思い出なんて、ちっとも思い浮かべることができません。
母親は、彼を愛してはいませんでした。愛しているのは自分自身の清い血と、他人からの評価。
父親は、彼を愛してはいませんでした。父の目に写っていたのは、これからの自分たちの繁栄だけ。
弟は、彼を愛してはいませんでした。弟は両親の命や他人の目を何よりも優先していたから。
妹は、
そこまで考えてから、犬は自分の腕に顔をのせます。そういえば、あの家での唯一の話し相手は、可愛い可愛い妹だけでした。しかし両親は、彼女を小さな部屋に閉じ込めて、それを彼女のためだと言うのです。
そんなはずが、あるわけがないのに。
黒犬は目を閉じました。思い出すのは悲しいことばかり。考えたって、悲しいだけ。
そして彼は眠りにつく前、ふとあることを思い出します。
今日は妹の、誕生日であることを。
「に、にいさま？」
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作者名：あんころころもち | 作者ホームページ：
作成日時：2020年4月22日 14時
