36th ページ36
そして、女の子は扉の陰に隠れて、声の聞こえる部屋を覗きました。そこには3人の男女。彼らはなにかを問い詰めています。その何かは、悲しげにしゃがれて、苦しそうでありました。
「クリーチャー？」
思わず呟きました。だってその哀れなそれは、自分の家族にしか見えなかったから。
「だれだっ！？」
しかしその女の子の声に、丸いメガネをした男が振り返ります。本に出てきた魔法の杖のような、棒状の何かをこちらに向けていました。
女の子は思わず扉の陰から飛び出ます。そしてクリーチャーのそばに走りました。魔法など知らない彼女には、その棒なんて、怖くあるはずないのです。
「A様？」
クリーチャーはこちらを見上げます。女の子は戸惑いました。なぜ、あれほどに強いクリーチャーが泣いているのでしょうか。この人たちが、いじめたのでしょうか。キッと、女の子は例の3人組をにらみます。
「なぜ、クリーチャーをいじめるの？」
その女の子の声に、茶色の髪の女は言いました。
「いじめてないわ。話をしていたのよ」
「それならば、どうして、クリーチャーは泣いているのですか？」
「それは……、レギュラスの……」
「黙れ！この穢れた血め！」
「クリーチャー！」
女の子は戸惑います。クリーチャーは赤毛ののっぽの声を聞いて、近くにあった机の脚に頭をぶつけていました。
「クリーチャー、やめてちょうだい！」
悲鳴のような声で、女の子はクリーチャーを止めました。そして先ほどの赤毛ののっぽの男をきつくにらみ、それからゆっくりと、先ほどの茶髪の彼女に問うのです。
「レギュラスって、どういうことですの？」
「聞いてはなりません、お嬢様。その者たちの声に、耳を傾けてはなりません！どうか、どうかクリーチャーめの言うことを聞いてくださいませ」
「……」
女の子は戸惑います。クリーチャーをちらりと見て、先ほどの3人組に目を戻します。一人は丸メガネの緑の瞳を持つ男。一人は赤毛でそばかすだらけののっぽの男。最後の一人は茶髪の女。
女の子は一つ息を呑みました。そして立ち上がりました。
「まず最初に、あなたがどのような権限があって、我が誇り高き兄の名を呼び捨てにするの？」
「は？」
女の子はにらみます。彼女は見るからに、下の兄よりも歳はずっと下でしょう。
女の子はいままで家族以外の人たちと、話したことはありませんでした。しかし彼女にはわかったのです。今は、怯んではいけないと。
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作者名：あんころころもち | 作者ホームページ：
作成日時：2020年4月22日 14時
