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舞台は相変わらずの草原で、向こうにはお茶を楽しむ両親、両親と自分を遮る小川には正体のわからぬ手。そしてすぐ後ろにはなにも見えぬ暗闇。
だけれどいつもと違うのは、もやの中に、兄のような誰かが、しっかりとこちらを見て立っているのです。
「に、にいさま？」
そう呼びかけてみると、その男はパチリと瞬きをしました。ヒゲがボーボーで、頬はやつれていて、最後に見た兄とは程遠く、見る影もありません。
「……A？」
呟くように男はそう言いました。そのとたん、女の子の瞳から、ほろほろと涙がこぼれ落ちます。男は慌てたように手を伸ばします。しかし、男は伸ばした手をすぐに押しとどめてしまいます。
「にいさま……、あなたはシリウス・ブラック様ですか？」
「そうだ。私はシリウス・ブラックだよ、A」
「ああ、兄さま。お会いしとうございました」
「来るな！」
力なく近寄る女の子を、兄は大きな声を出して制します。女の子は驚いて、目を見張ります。そして涙ぐんだ瞳で、兄を見つめるのです。
「いや、そうじゃなくて、兄上はまだ少し恥ずかしいから、距離を置いてくれないか？」
「…………そう、なの、です、ね」
ストンと女の子は、座り込みます。少しショックでしたが、兄がそういうのであればしかたありません。兄は安心したように、小さく息をこぼしました。
そして彼も、同じように女の子前に座ります。彼は言いました。
「しばらく、会えていないな」
「そうですわ。わたくし、ずっと待っておりますもの。なぜ会いにいきてくださらないの」
「……すまない。どうしても、会えないんだよ」
そう言われて悲しげに、女の子は視線を下ろしました。だけれどなにも言いません。ただ悲しげに微笑んで、涙が落ちぬように気を張っていたのです。
「A、泣いていたのか？」
「……」
兄のその言葉に、女の子は目をそらします。どう答えればいいのでしょう。泣いていたなんて答えると、兄を幻滅させてしまうのではと考えたから。
「もう、泣くのはやめろ、A。お前には俺やレギュラスの妹で、……オリオンとヴァルブルガ・ブラックの娘だろう？ しっかりするんだ。俺の大切な可愛い妹」
そこで、女の子は目を覚ましたのでした。
兄にそんなことを言われて、なぜ泣いてることができましょうか。女の子は兄の言うことを聞かなくてはと、兄に恥じぬようにしなければと、その日から、涙を流すことをやめたのでした。
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作者名：あんころころもち | 作者ホームページ：
作成日時：2020年4月22日 14時
