＊ ページ16
「‥無い。」
「‥‥‥‥‥」
其れから三時間。二人は例の場所へ赴き、草原をかき分けながら必死に筆を探し続けた。ラヴィニアによると「最近自分の描く絵がマンネリ化して来て、何か新しい題材が無いか探していた。」との事。だからきっと、此の辺りにあるはず。
既に日は沈み、空は紫色の雲の群れと早めの月が顔を出していた。親に連絡する暇なんか無い。世阿弥はふと隣を見た。頬に土汚れを付けて其れを拭いもせず、額に汗を滲ませながら一心不乱に捜し求める親友の姿。指先からは鋭い植物に触ったからか、少し血が浮かんでいた。早く捜し出さなければ、最悪ラヴィニアは「死んでやる」と言い出しかねない。
大切にされているんだなぁ、と筆に思いを馳せる。あの時あの瞬間、あの日に渡して良かった。筆を渡したのはほんの気まぐれだった。町中で見つけて、何だかラヴィニアが好きそうだな、なんて思って衝動買いしたのだっけ。珍しく衝動買いをする過去の自分に驚いた。其れと同時に、今の一生懸命なラヴィニアの姿が、酷く美しいとさえ思ってしまった。
自分の描く世界が自分の世界だった。自分が描きたい世界を描きたい時に描いて、可視化する。他人から見える景色よりも自分が見る世界の方がずっと居心地が良かった。だから青い太陽だって、朱い海だって、自分がそう見えるのなら他人がケチをつけようが、私はずっと此の世界を愛していた。
見えるものだけが、世界だった。
けどけど、其れは違ったみたい。確かに自分から見える世界は誰よりも美しかったし信じる事が出来た。でもでも、親友と呼べる存在が出来てから、私は変わって行ったと思う。まぁ、少しずつだけど。
彼の世界は違った。見えるのに、更に見ようとするのだから。最初は何やってるんだろ、としか思えなかった。舞台の台本とにらめっこして、ちゃんと台詞も行動も書いてある筈なのに別の事を考えている。素直じゃない、と思った事だってあった。けれども其れは間違いだと気付いた。見える物の更に奥深くには、見えない宝物があるんだって。そう気付かせてくれた。
世界は、色だけでは無かった。世界には、音があった。
目に見えなくても、世界は回っていた。
あの筆は、私の
世界との境界線を解かす為の物だったんだ。
『あみ』と言う絵筆で世界と繋がっていたのだ、ラヴィニアは。
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TENN - アイスノンさん» リクエストの御応募誠に有り難う御座います、！承りました。少々時間を要する恐れがありますが何卒宜しく御願い致します。 (9月29日 23時) (
レス) id: 62190880e4 (このIDを非表示/違反報告)
アイスノン(プロフ) - 失礼致します。リクエストで婚約者から逃げる稙月は可能でしょうか (9月29日 18時) (レス) id: e910e54a62 (このIDを非表示/違反報告)
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