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どれくらい経っただろうか。


涙が止まった頃には、オレンジだった空は濃紺になり、星が輝いていた。


「…ごめん」


夕が突然口を開いた。


「俺あの時ひどいこと言った。

何も知らずに自分の考え押し付けた。

Aがいなくなった後九条に全部聞いたんだ。

…ごめん」


私を抱きしめたままそう言う夕。


…違う。


「私が言わなかったのが悪かったの。

知らなかったんならああ言うのが普通だよ。

私も…ごめん」


夕は私から身体を離してニカッと笑った。


私の大好きだった笑顔で。


「お互い様だな!」


それからもう一度私を引き寄せ、抱きしめた。


私も背中に手を回して答える。


「…Aは今…幸せか?」


身体を離し、突然そう聞いてきた彼に驚いた。


幸せ


音駒のみんなの笑顔が浮かぶ。


「ん。幸せだよ」


そうはにかんだ。


偽りのない、心からの笑顔で。


「よかった。

…本当なら俺が幸せにしてやりたかったんだけどな!」


彼の言葉に首を傾げる。


そんな私を見て苦笑した夕だけどすぐに笑顔になって言った。


「何かあったら言えよ!

送ってく」


今は音駒にいると言うと、彼は少し驚いたように見えた。


理由は分からなかったけど、私の横を歩く彼を見るとそんなことはどうでも良くなって頬が緩んだ。


まるで喧嘩なんかしなかったみたい。


喧嘩したのは私が家を出て1ヶ月経ったところで、死亡届を彼を騙して出してもらったときだ。


それまでは危険だからという理由で一人暮らしの彼の家に匿われていたが、それを知った彼は当然怒り出した。


親も心配しているからと何度も説得された。


彼は私が虐待されていることを知らなかったから。


初めは仕方ないと受け流していたが、何度も言われ続けるうちに言い返してしまい、そこからは売り言葉に買い言葉で…。


大喧嘩をした挙句、私は彼の家を飛び出した。


それから4年。


今はもう前みたいな関係ではないけれど、私達の間には離れていた時間を感じさせない何かがあった。


隣で笑う彼を見てふと思った。


この人を好きだったこと。


この人と付き合えたこと。


この人と過ごせたこと。


この人と仲直りできたこと。


この人と今こうして歩けていること。


全部全部…


本当によかった、と。

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ミックスジュース - めちゃめちゃいい作品を有り難う御座います!これからも楽しみにしてます! (2020年11月7日 21時) (レス) id: f935ff1209 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:朝夜花 | 作成日時:2020年10月31日 18時

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