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「…それじゃああの時と同じだよ」


あの時、というのは私が出来損ないを演じ始めた時だろうか。


それとも彼と別れた時だろうか。


「Aは傷つけるのが怖いから…傷つけたことで自分が傷つくのが怖いからっていつも逃げている。

西谷と別れた時、なんで本当のこと言わなかったの?

…言ったことで嫌われるのが怖かったんでしょ」


京治の言葉に耳を塞ぎたくなる。


必死で下唇を噛み締める。


…そうでもしないと泣いてしまいそうだ。


「あの時まだ…好きだったんでしょ」


…好きだった。


彼は私の唯一の彼氏で、数少ない私を私として見てくれる人だった。


小さい頃から鳳月組の娘というレッテルを貼られていた私を、鳳月Aとして、1人の人間として見てくれた。


今も好きかと訊かれたら正直分からない。


でもあの頃私は確かに彼が好きだった。


「いつ彼が…一花さんのようになるか分からないんだよ」


そうだ一花…。


「一花さんのこと、何年か前青城と仕事した時に及川さんから聞いた。

Aはこれで後悔しない?」


この世界に生きる私たちはいつ死ぬか分からない。


このまま彼に会わないまま終わってしまったら…どうだろうか。


私は後悔…しないだろうか。


「私、烏野に行ってくる。ありがとう、京治」


そう言って立ち上がると京治の目が少しだけ見開かれた。


でも…


「いってらっしゃい」


珍しく微笑んだ彼はそう言った。


「じゃあ俺は帰るね。…頑張って」


彼の背中を見送ってから黒尾さんの部屋の前に行く。



コンコン



ノックをすると気の抜けた返事と共に黒尾さんが出てきた。


「お、A。どした?」


「私今から烏野に行ってきます」


「…は?」


目を見開いて聞き返す黒尾さん。


…そりゃそうか。


「烏野に知り合いがいるので会ってきます」


そういうと何かを察したのか


「おー、頑張れよ」


と私の頭をクシャリと撫でて背中を押してくれた。

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ミックスジュース - めちゃめちゃいい作品を有り難う御座います!これからも楽しみにしてます! (2020年11月7日 21時) (レス) id: f935ff1209 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:朝夜花 | 作成日時:2020年10月31日 18時

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