匂わせちゃう系男子。6 ページ6
『伊沢さん』
小さく声をかけると、彼はグッと眉間に皺を寄せながらゆっくりと薄く目を開けた。
ぼんやりとした焦点の定まらない視線を感じながらも、対照的に私は彼をジッと見つめる。
「おはようございます、朝ですよ」
普段お疲れなのだから、もう少し寝かせてあげたかったなぁと惜しむ気持ちを押し殺して、私は彼に声をかけ続けた。
すると彼はもぞもぞとベッドの中で動いたかと思うと、私と彼の間にわずかにあった隙間を埋めるかのように、ぴったりとくっついてきたのだった。
その行動はおそらく無意識だとは思うが、私はそれに思わずキュンと胸をときめかせて。
私をガッチリとホールドしたまま再び眠りにつこうとする彼を、うっかり見逃しそうになってしまった。
ときめいている場合ではないと、私はハッと我に返る。
『伊沢さん寝ちゃ駄目です起きてください!』
彼に抱きしめられているので懸命に身動ぎをしながら、私は右手のみニュッと布団から出して彼の頬をペチペチと軽く叩いた。
「う〜〜ん…」
全然起きない。
相変わらずの彼の寝起きの悪さを目の当たりにして、普段この人は1人でどうやって朝目覚めているんだ?と疑問に思ってしまった。
ここで少し思考を巡らせた私は、全く起きる気配のない彼にギリギリ聞こえるくらいの声で、
『今起きたらほっぺにキスします』
とぽそりと呟いた。
その直後、
「…唇がいい」
という彼の低い声が聞こえてきて。
少し躊躇ったものの、彼が起きてくれるならもう何でもいいやと投げやりな気持ちになった私は、
『じゃあそうしましょう』
と了承の意を彼に告げた。
その瞬間、ガバッと勢い良く彼がベッドから飛び起きた。
あまりの勢いに、一人ベッドに取り残された私は目をぱちくり。
「起きた!Aちゃんからのキスは貴重すぎるから、出かける時まで取っとく!」
と先程までベッドでむにゃむにゃしていた人とはまるで別人のように、意気揚々としているのだった。
まさかそんなキスを大切に取っておかれるとは微塵も思っていなかった私は、ひたすら苦笑いすることしかできず。
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作者名:Annie | 作者ホームページ:https://twitter.com/kmu_annie?s=09
作成日時:2020年9月16日 20時