なれそめ。Side:I 10 ページ10
そして迎えた撮影当日。
ふくらさんが撮影で使うホワイトボード用のペンを切らしたと言うので、俺が買って来ようとしたらすでに彼女が経費用のお財布を手にオフィスを飛び出していた。
いつも彼女は雑用を引き受けてくれる。
ただ、今日は彼女が問読みをする大事な撮影だ。
緊張していないはずがない。
俺は少しでもその緊張を和らげてあげたいと思い、彼女の背中を追う。
エレベーターではなく、階段を使って一気に駆け下りた。
すぐに追いつき、雑貨屋店までの道のりを一緒に歩く。
2人で話をしていると、彼女の表情がコロコロ変わって面白い。
他の誰かではなく、俺だけに見せてくれているということが物凄く嬉しい。
俺はじんわりと心が満たされていくのを感じた。
俺が褒めても、彼女は自分にできることをしているだけだと謙遜をする。
…そういうところだよなぁ。
と思っていたら、口に出ていた。
彼女は不思議そうな顔をしている。
彼女の凄さは、努力を努力と思っていところだ。
誰かに褒められたいから、自分の力をアピールしたいからなどという驕りはそこには一切ない。
そんな気高さが人々の心を打つのだ。
そして、俺もその1人である。
彼女が笑っているのを見ると、俺も嬉しい気持ちになる。
これは父親のような気持ちからではなく、紛れもなく彼女を1人の女性として愛しいと思っているということに他ならない。
そうか、俺は彼女のことが好きなのか。
今更気づいたことに俺は自分が情けなくなった。
それと同時に自分の今までの言動や行動を振り返る。
他の男と仲良くしているところに横槍を入れたり、彼女が男と知り合う場に行かせまいとしたり…
なぜここまでやっておいて好きだと自覚できなかったのか。
物凄くいたたまれない気持ちになりながらも、俺は隣で笑う彼女が本当に愛しくて。
どうやってこの気持ちを伝えようかと考えながら、オフィスまでの道のりをゆっくりと歩いたのだった。
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作者名:Annie | 作者ホームページ:https://twitter.com/kmu_annie?s=09
作成日時:2020年3月27日 19時