【あんスタ】兄嫌いと兄者嫌い【男主】

Episode３０＋やさぐれ気味＋ ページ31

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　お互いの顔が街灯の少ないこの道でもはっきりとわかるくらいには、少年との距離を詰めた先輩。身長差さえなければ、お互いの吐息が顔にかかってもおかしくないくらいの距離感だ。


「...Aくん」


　ひどく優しく掛けられた言葉に、少年ははっとして顔を上げる。刹那、互いの視線が交じわり合ってしまった。




『せんぱい、どうしてこんなところに？ ……』


　薄っぺらい貼り付けたような笑みを浮かべて、少年は先輩である朔間 零の出方を窺った。……と同時に、Aは彼の表情から、ほとんどの情報を汲み取ってしまった。




「夜の散歩じゃよ。我輩、夜闇の魔物じゃから」

『へぇ〜。奇遇ですね、僕もですよ』


　こんなのは八つ当たりでしかないと、わかっていてもどうしようもなかった。嘲笑を浮かべて、この状況から早く、気づいてしまったが最期のこんな現実からさっさと、抜け出してしまいたかった。



「ふぅむ、そうじゃ...今日は我輩の家にでも泊まらぬか？ ……我輩、独りであの家にいるのが寂しくてのう」

『!! わ、かりました―――っぁ、で、ですが…』

「よいよい。衣更くんの家へ行くのじゃろ。我輩もついていくぞい♪」

『ぁ、ゃ...はぁ。……わかりました』



　少年は盛大に顔を顰めて、衣更家までの道を歩いた。数歩先を喜々として歩く先輩の後ろ姿を複雑そうに眺めながら。


　互いの間を静かにそよ風だけが流れていく。互いに言葉を交わさずとも、その空間は心地よいと思っていた心はどこか遠くへとおいてきたかのように、少年はこの空間に気まずさを覚えていた。
　少年は、一人になりたかったのに、と表情を暗くさせる。そんな様子の少年を、こっそりとのぞき見る先輩は、……これで本当にあっていたのだろうか、とポケットの中で握りしめたスマホに腹の裡で問いながらぼうっと夜空を見上げていた。




「…………そういえば、旧校舎のあれ。Aくんのじゃろう？」

『えっ……』

「月永君はおらんし、あの字はAくんのものじゃなかろうかと、日々樹君と話しておったのじゃよ」

『……渉先輩と？
　ど、どうでした……？』

「素敵な曲になるじゃろうと、」

『―――っ、せんぱいっ』

「一体、どうしたというのじゃ」



　急に飛びつくように抱き着いた少年を先輩は易々と抱きとめた。堰を切ったかのように嗚咽する少年を、先輩は困ったように眉を下げ、非常にやさしく、そっと彼の背に腕を回した。






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