遠い朝 ページ11
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からだが重い。
浅い眠りから目覚めると、その独特の気だるさが四肢にまとわりつく。
街はまだほとんど夜の中で――東の空がわずかに白んでいる――その弱すぎる朝の光が天井を白く浮かび上がらせていた。
やわらかいシーツ。
寝返りを打つと、無防備に眠る男の姿がある。
ぴったりと閉じた猫のような目。
うっすらと開く、桜色の唇。
おどろくほどの清潔感を持って、その男はそこで眠っている。
おだやかに。まるで、幼子か何かのように。
―……集中して―
―自分、かわいいなあ―
「…………」
わたしは彼を起こさないよう、細心の注意を払ってベッドを抜け出した。
床に放りっぱなしになっていたドレスをハンガーに吊るし、軽く部屋を片して、それから衣服を身につけていく。
この男のためにも、わたしはすべて昨晩の出来事を、無かったことにしようと思う。
星のない夜の片隅、奇妙な巡り合わせの男女が、花蜜の闇に身を投じた。
ただ、それだけだ。
……それ以外の何ものでもなかった。
部屋を出る寸前、昨夜の文庫本をテーブルに置いたままでいることに気がついた。
しかしそれをバッグに入れることはせず、代わりに、その真横にカードキーを置いた。
そうして引き出しから見つけたメモ用紙に、料金は先払いのため鍵だけフロントに返すよう書き置きを残した。
特にさよならも、おやすみも告げずに部屋をあとにすると、わたしは廊下を進みながら、タクシー会社に電話をかける。
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家に帰ってから気づいた。
文庫本の他に、化粧乳液の壜と通勤用の定期券を入れたパスケースを部屋に忘れてきてしまった。
斎木と同室に泊まっているだろう麻結に連絡しようと思ったが…………やめた。
あの部屋には、まだあの男が眠っているのだ。
やけに甘ったらしいあの小柄な手や足や肩や背中を思い浮かべて、なんだか気が遠くなって、淹れたコーヒーも飲まずに自分のベッドに潜り込んだ。
たいしたことではない。
残りすくない化粧水のことも、期限切れ間近の定期券のことも、他人が用意した部屋で見知らぬ男と寝たことも。
わたしにとって、たいした問題ではない。
そういう邪気のない自由こそ、わたしのあいするものであり、また、わたしそのものなのだから。
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べに(プロフ) - 516516516tさん» こちらのほうも…！本当にありがとうございます(T T)双子とはまったくテイストが違いますが、これからもよろしくお願いいたします！ (2018年9月28日 0時) (
レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
516516516t(プロフ) - 双子と共にこちらも読んでいます！ (2018年9月26日 21時) (レス) id: 06c5e90194 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：べに
| 作成日時：2018年9月11日 21時
